1.標準的な脊髄くも膜下麻酔法

  • 帝王切開術の麻酔法は,脊髄くも膜下麻酔が推奨される.
  • 利点として,児への麻酔薬の影響が少ないこと,出産の記憶を保てること,全身麻酔に起因する麻酔合併症(気道確保困難や誤嚥性肺炎)を回避できることがある.
  • 主な合併症として,低血圧,硬膜穿刺後頭痛,高位脊麻による呼吸停止,神経障害などがある.
  • 帝王切開術の際の脊髄くも膜下麻酔の流れをフローチャート(図1)に示す.これは「私がこうしている」というよりも,「(人的・物的制約下で)私ならばこうする」という方法である.

ポイント

  • 必要十分量の局所麻酔を投与することにより術中の不快感を緩和し,鎮静薬や全身麻酔薬投与の必要性を回避すること,麻酔後の低血圧を積極的に予防し迅速に治療することで,子宮血流を維持することなどである.
  • 麻酔後の低血圧の際には,晶質液よりもボルベンⓇのような膠質液の投与が有効と考えられる.特に分子量70kDa のヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤に比べて分子量130kDa であるボルベンⓇの方が効果の持続を期待できる.
  • 術後の鎮痛には,アセトアミノフェンやNSAID を定時投与し,必要であればトラマドールなどの非オピオイド鎮痛薬(トラマール100 Ⓡ 1回100㎎筋肉内注射 4~5時間ごと反復投与)や,ペンタゾシン(ペンタゾシン注15㎎Ⓡ 1回15㎎筋肉内注射または皮下注射 3~4時間ごと反復投与)などの弱オピオイドを静注するなど,異なる作用機序の鎮痛薬を併用することが望ましい.
  • 帝王切開術を経腟出産と同様に満足のいく出産体験とするために,早期母子接触や夫の立ち会い,早期離床などを実践できる麻酔管理が求められる.