2.不妊治療における保険診療の現状

ポイント

  • 妊娠が成立するまでの期間に,不妊治療に寄与する保険診療と保険適用外診療を行うことは原則禁止されているが,例外として先進医療は,保険診療との併用が可能である.

 2022年4月,不妊治療の保険適用が開始された.それまで不妊治療は,特に生殖補助医療(以下ART)に用いる薬剤,検査法,治療法はすべて保険適用外診療(以下保険外診療)であったが,ARTの診療内容,技術などの多くが保険適用となった.一方,保険適用下では実施できない技術や薬剤が保険適用から取り残された.その一部は先進医療として保険診療との併用が可能となったが,未だに解決できていない医療技術も少なくない.

保険外併用療養費制度について

 日本の保険診療制度では,保険診療と保険外診療の併用は原則として禁止されているが,2006年に保険診療と保険外診療の併用が認められる保険外併用療養費制度が創設された.この制度では,保険診療との併用が認められる療養が3項目承認されている(①評価療養,②患者申出療養,③選定療養)(図6).

図6.保険外併用療養費制度について

 先進医療は①評価療養に分類され,未だ保険診療として認められていない先進的な医療技術などについて,安全性・有効性などを確保するための施設基準を設定し,保険診療との併用を認め,将来的な保険導入に向けた評価を行う制度である(図7).先進医療には「A」と「B」と2つあり,先進医療Aは,主に医薬品,医療機器などの品質,有効性および安全性の確保などに関する法律(薬機法)で承認・認証・適用があるもので保険外適用の技術や検査などがこれに相当する.一方,先進医療Bは薬機法上,未承認のものか適応外使用の技術,検査,薬剤などがこちらに相当し,先進医療Bは臨床試験的要素が強い.いずれにしても,先進医療という制度を使用することで,保険外併用療法が可能となる.

図7.先進医療Aと先進医療B

生殖補助医療と保険外診療

 生殖医療に関連する医療技術,検査,治療のうち2024年1月現在,保険外診療とされているものを表2に示す.

 表2⑥に関しては,子宮卵管造影(以下,HSG)を実施する前に,付属器のクラミジア感染と既往の有無を確認するためのクラミジア抗体検査は実施できない.また,表2④に関しては,単身赴任や出張の多いカップル(漁師や海上自衛隊勤務など)の場合,精子の凍結保存が必要となることがあるが,精子の凍結は保険診療としては認められていない.

 ただし,表2の⑧~⑭の検査,技術は2023年3月の段階で先進医療Aとして承認されており,各医療機関から各地方の厚生局へ申請・承認されれば使用可能である.未だ先進医療Aとして承認されていない技術や検査(表2③,⑤)は,医療機関より厚生労働省へ申請し,先進医療会議で審議され,先進医療Aとして承認されればその施設で使用可能となり,その後,それ以外の医療機関が各地方の厚生局へ申請し承認されれば,使用可能となる.

 一方,先進医療Bは,実施医療機関が指定されており,①②に関しては,2022年の先進医療会議で先進医療Bとして承認されているが,その後の申請でそれ以外の医療機関がその技術を使用可能となることはない.

 なお,一部の自治体では先進医療助成制度が始まっているが,居住地によって経済的負担が異なることが課題である.

表2.生殖医療に関連すると考えられる保険外診療(主な項目を列挙)