1.リスク因子
(1)早期流産(表16)
①胎児染色体異常(Ⅱ-2 項参照)
②内分泌異常・黄体機能不全(Ⅱ-3 項参照)
③子宮形態異常(Ⅱ-5 項参照)
④血液凝固能異常
抗リン脂質抗体症候群,プロテインS 欠乏症,プロテインC 欠乏症,第Ⅶ因子欠乏症などの一部では,血栓症などにより,流産・死産を繰り返すことがある.
1 )プロテインS 欠乏症
⃝先天性血栓性素因の一つであり,習慣流産のリスク因子とされている.
⃝頻度は白人では0 . 16~0 . 21%,日本人では1 . 12~2 . 04%と報告されている.
⃝プロテインS は,血液凝固因子の活性化Va 因子,活性化VⅢa 因子を不活性化させる作用があり,血液凝固に対して抑制的に働いている.
⃝妊娠中はプロテインS 量が低下しやすいため,血栓・塞栓症発症のリスクが上昇する.
2 )第Ⅻ因子欠乏症
⃝流産との関係について近年注目されている.
⃝血液凝固因子の一つで,欠乏すると血栓や流産を引き起こしやすい.
⃝第Ⅻ因子を完全に欠損する場合でも,流産しないことがあり,第Ⅻ因子欠乏症と流産の関係については,不明な点も多いのが現状である.
(2)後期流産
後期流産においてはそのリスク因子は早期流産と大きく異なり,母体側の要因が占める割合が大きくなる.
1 )母体側要因(表17)
①子宮頸管長短縮・子宮頸管無力症
⃝前回の妊娠管理中に頸管長計測を行っていなかった場合は判断が難しい.
⃝妊娠24 週で頸管長が30㎜以下,26㎜以下に短縮したとき,35 週未満の早産のオッズ比がそれぞれ3 . 79,6 . 19 に上昇する(1996 年Iams ら).
⃝15 週から24 週の頸管長のROC 曲線を用いた検討では,25 ㎜が30 週以前の早産予知のカットオフ値として最適である(Guzman ら).
⃝以上より,頸管長25㎜を下回った妊婦を早産のhigh-risk 群として管理していく必要がある.
②円錐切除後
⃝円錐切除で頸管腺が切除されることにより,抗菌作用を有する頸管粘液の分泌が減少し,ひいては絨毛膜羊膜炎を誘発し,結果として前期破水を引き起こすためと考えられている.
⃝15㎜以上または2 . 66㎤以上切除した場合,早産率が2 倍になるという報告がある.
③絨毛膜羊膜炎(Ⅳ-3 項も参照)
⃝前回の流・早産時,臨床的に絨毛膜羊膜炎を疑う所見が存在していたか,病理学的な胎盤および臍帯の病理所見の確認が必須である.
⃝出生児の感染兆候も重要な所見である.
④胎盤の血腫性病変(Ⅳ-3 項参照)
⑤子宮頸管ポリープ
⃝成人女性の2~5 %にみられる疾患である.
⃝ほとんどが良性であるが稀に悪性の報告もあり,原則的には切除し組織学的検査を行う.
⃝妊娠中に発見された場合は,切除により子宮内に影響を与え,流産や破水を誘発するリスクがあるという否定的な考えと,ポリープ自体が出血・感染源となるので,予防的に切除した方がよいという肯定的な考えがある.
⃝子宮内膜から連続する脱落膜ポリープ(decidual polyp)の場合は切除すると流早産のリスクが上がることから注意が必要である.
⃝いずれにしても取扱については十分な説明と同意が必要である.
⑥子宮筋腫(Ⅱ-5 項参照)
2 )胎児側の要因
⃝稀ではあるが,Potter 症候群など胎児尿産生が阻害される疾患では妊娠中期にかけて破水を来すことがある.
⃝染色体異常も含めて胎児形態異常・機能異常の有無についても確認しておく必要がある.