1.両立支援
・ 医療技術の進歩などにより,かつては「不治の病」とされていた病気でも予後がよくなってきており,例えば,がん治療は,入院治療から通院治療へのシフトが可能な場合も多く,がん患者の約半数が治療を受けながら勤務を継続するなど病気を有しながらも体調や症状などに応じて自立した日常生活を営むことが可能となってきている.
・ また,事業者側としても,労働者が業務によって疾病を増悪させることなく治療と仕事の両立を図るための取り組みは,人材確保,労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上,組織としての社会的責任の実現,労働者のワーク・ライフ・バランスの実現といった意義もあると考えられる.
(1)両立支援の検討に必要な情報
・ 労働者からの申し出に基づき,事業者が治療と職業生活の両立支援を検討するに当たって,参考となる情報は以下のとおり.
①症状,治療の状況
・現在の症状
・入院や通院治療の必要性とその期間
・治療の内容,スケジュール
・通勤や業務遂行に影響を及ぼし得る症状や副作用の有無とその内容
②退院後または通院治療中の就業継続の可否に関する意見
③望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業,時間外労働の可否,出張の可否など)
④その他配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保や休憩場所の確保など)
(2)労働者からの情報提供
・ 治療と職業生活の両立支援の検討は,両立支援を必要とする労働者からの申し出から始まる.
・ 両立支援を必要とする労働者から,事業場の産業保健スタッフや人事労務担当者に相談があった場合は,労働者が必要十分な情報を収集できるよう,産業保健スタッフや人事労務担当者は,事業者が定める勤務情報の提供のための書面や作成支援や,事業場が定める様式について,周知しておくことが望ましい(図43).
(3)主治医からの情報収集内容の補填
・主治医から提供された情報が,両立支援の観点から十分でない場合
① 産業医もしくは事業場で健康管理などを行う医師(以下「産業医など」という),あるいは保健師・看護師などの産業保健スタッフがいる場合には,労働者本人の同意を得た上で,産業医などや産業保健スタッフから主治医へ必要な情報提供を依頼することが可能.
② これらの者がいない場合には,労働者本人の同意を得た上で,人事労務担当者などが主治医へ必要な情報提供を依頼することもできる.
(4)就業継続の可否,就業上の措定および治療に対する配慮
・ 事業者は,就業上の措置などを検討するに当たり,主治医から提供された情報を産業医などへ提供し,就業継続の可否や,就業可能な場合の就業上の措置および治療に対する配慮に関する意見を聴取することが重要となる(図44).
(5)治療に対する配慮の検討と実施
・ 事業者は,主治医や産業医などの意見を勘案し,就業を継続させるか否か,具体的な就業上の措置や治療に対する配慮の内容および実施時期などについて検討を行う.その際,就業継続に関する希望の有無や就業上の措置および治療に対する配慮に関する要望について,労働者本人から聴取し,十分な話し合いを通じて本人の了解が得られるように努めることが必要である.
文献
1)「両立支援のためのガイドライン」.厚生労働省.