1.骨髄抑制

・化学療法の副作用として一般的にみられる骨髄抑制は,重篤な結果を招く可能性があり,予防や発生した時の対処法について習熟し,患者や家族にも指導を行う必要がある.

(1)白血球減少・好中球減少

・ 好中球数が 500/μL 以下で感染症のリスクが高まる.100/μL 以下が続くと敗血症の可能性が高まる.
・ 好中球は寿命が 8 時間と短く(赤血球 120 日,血小板 7 日),nadir(最低値)が 5 日から 14 日前後と比較的早期に認められる.
・ 好中球数が 500/μL 以下あるいは白血球 1,000/μL 以下で好中球 500/μL 以下になる可能性が高い状況で,腋窩体温 37.5 度以上の状態を発熱性好中球減少(FN:febrile neutropenia)と呼び,適切な対応が求められる.
1 )発熱性好中球減少(FN)の予防
・ すべての患者を対象として,手洗い,口腔ケア(歯ブラシ,うがいなど),シャワートイレなどの清潔維持の必要性について説明する.
・ 抗がん薬投与の前には,基礎疾患の治療や齲歯,歯槽疾患,痔核,皮膚病変などの感染源の治療を行う.
・ 抗がん薬投与の前に,FN 発症のリスク評価を行い,予想されるFN の発生時期を患者に説明する.
・ FN 発症のリスク評価は,治療レジメン側要因と患者側要因を検討して行う.
・ 海外のガイドラインの FN 発症リスクを列挙した(表1).
高齢者,PS 不良,FN 既往歴あり,進行がんなどが共通するリスク因子と考えられる.

図2 は,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF:granulocyte-colony stimulating factor)予防投与のアルゴリズムである.
ⅰ)予定している化学療法レジメンのFN 発症リスクを評価.
ⅱ)レジメンのFN 発症リスクが20%を超えるようであれば,G-CSF 予防投与を1サイクル目から行うことを推奨.
ⅲ)FN 発症リスクが10%未満の場合は,予防投与は実施しない.
ⅳ)その中間となる,FN リスクが 10~20%のレジメンの場合は,これらのFN 発症リスクを検討して,予防的G-CSF投与を行うことが推奨される.FN リスクとして,65 歳以上,がん薬物療法歴,放射線治療歴,持続する好中球減少,骨髄への浸潤,最近の手術,肝機能異常,腎機能低下(クレアチニンクリアランス< 50)などがある.

2 )発熱性好中球減少(FN)の治療
・ FN が疑われる場合には,血算,白血球分類,血液生化学,CRP,検尿,胸部レントゲン写真撮影,血液培養を行う.また,問診,診察,理学所見などから可能な限り感染源の検索を行い,必要に応じてCT などの画像検査も併用する.感染源が特定可能な場合は,検体採取を行い,グラム染色,培養を行う.
・ 患者ごとにFN 重篤化のリスクを評価し,経験的な抗菌薬を開始する(表2,図3).
・ 低リスクであれば経口抗菌薬による治療,高リスクの場合には経静脈抗菌薬投与による治療を行う.ただし,重症化リスクを示唆する臨床徴候がある患者(頻呼吸,重要臓器障害など)や,高度( 100/μL 未満)あるいは長期( 7 日間以上)の好中球減少が予測される患者などにおいては慎重な判断が求められる.
・ G-CSF はFN の発症抑制を目的とした薬剤であり,治療的に用いる臨床的意義はないと考えられるが,好中球減少が高度,65 歳以上,原疾患のコントロール不良,肺炎,低血圧,多臓器不全などのFN 患者にはG-CSF の治療的投与を検討する.

(2)血小板減少

一般に固形癌の化学療法で出血傾向が出現するレベルまで血小板が低下することは少ないが,患者の状態によっては問題となることもあるので出血に備えておく必要がある.

1 )出血の予防
患者に出血傾向がみられる可能性を説明しておく.歯肉,鼻腔,消化管,痔核などが出血源となりやすいことを伝え,可能な限り治療中もケアをするように促す.歯磨き,髭剃り,転倒などが誘因となり出血を惹起しやすいため注意を促す.婦人科領域で使用頻度の高いカルボプラチンは 10~20 日にnadir を来し,回復に 7~10 日要する.
解熱や痛み止めが必要な時には,血小板凝集抑制作用の少ない,アセトアミノフェン,イブプロフェン,ステロイドを用いる.バファリンやNSAIDs は同作用を有するためなるべく避けるか,慎重に投与する.

2 )血小板減少の治療
血小板輸血を行う.血小板数が 20,000/μL 以下となった場合は出血傾向がなくても血小板輸血を行う.通常 1 回 10 単位を輸血する.血小板数を 10,000/μL 増加させるには,体表面積当たり 2 単位の血小板輸血を要する.
頻回の血小板輸血では,human leukocyte antigen(HLA)に対する同種免疫抗体が出現しやすく,血小板輸血不応状態となる.予防としては,放射線照射血小板製剤を,白血球除去フィルターを通して使用する.輸血不応状態となった場合は,HLA 適合血小板輸血が勧められる.

(3)赤血球減少

成熟赤血球は末梢血で 120 日間の寿命があり,老化した赤血球は脾臓でマクロファージにより貪食される.化学療法を開始後まもなく,輸血を要する貧血に至ることは少ない.

1 )貧血の治療
赤血球の輸血を行う.一般に心機能を保つためにヘモグロビン(Hb)値7g/dL 以上を保つ必要がある.白血球除去フィルターを用い一日に濃厚赤血球 1~2 単位を輸血する.Hb 1g/dL 上昇するためには赤血球保存液300mL が必要である.