避難所で生活する妊産婦,乳幼児への支援のポイント

 災害時における被災者・避難者の健康管理については,疾病や急変に対する早期発見や搬送に関する対応が中心となるが,さらに災害弱者としての妊産婦・乳幼児への対応や各種疾病の発症予防についても配慮する必要がある.最近は母子避難所の設置など,配慮ある救護施設を構築する動きもあるものの,父親(夫)と分離となる可能性もあり,多くの避難所ではまだ,医療および保健の面からも課題は多い.

 避難所などで生活している妊産婦,乳幼児に対する支援のポイント 7 つを示す(表11)

 また,避難所などで生活している妊産婦,乳幼児で気を付けたい症状として,医療機関への相談・連絡が必要な症状とその他起こりやすい症状を示す(表12)

 さらに,災害により避難所では生活そのものに少なからず変化が生じ得るので,以下に具体的な対策について記載する.

①食事や水分摂取について

  • 弁当やインスタント食品が中心となると,塩分の摂取量が増加し,むくみが生じやすくなる.支給された食べ物でも,塩分の濃いものは残すようにする.
  • 食事がおにぎりやパンなど炭水化物が中心で,たんぱく質やビタミン,ミネラル, 食物繊維などが不足しがちになる.可能な限り主食・主菜・副菜をそろえた食事を確保し,バランスのよい食事をとる.栄養補助食品を使用して補うのも1つの方法である.支援者は,体重の変化をみるなどして,十分な量の食事がとれているかを確認する.
  • 食中毒に注意する.
  • 熱中症予防のために,こまめに水分補給をするよう伝える.

②授乳について

  • 母乳育児をしていた場合は,ストレスなどで一時的に母乳分泌が低下することもあるが,その場合も不足分を粉ミルクで補いながら,安心して授乳できるプライベートな空間を確保できるようにする.
  • 調乳でペットボトルの水を使用する場合は,硬水(ミネラル分が多く含まれる水)は避ける(乳児の腎臓への負担や消化不良などを生じる可能性があるため).
  • お湯が用意できない時には,衛生的な水で粉ミルクを溶かす.授乳ごとに準備し,残ったミルクは処分する.
  • 哺乳瓶の準備が難しい場合は,衛生的なコップなどで代用する.
  • 哺乳瓶・コップを煮沸消毒や薬液消毒できない時は,衛生的な水でよく洗って使う.

③体温の保持について

  • 乳児の体温は外気温に影響されやすいので,体温調節に配慮する.保温には,新聞,布団などで身体を包むなどして,抱き温める.暑い時は,脱水症にならないように 水分補給をする.汗をかいた時は,なるべく肌着をこまめに替える.

④清潔について

  • 母子ともに入浴にこだわらず,身体はタオルやウェットティッシュで拭く.特に,陰部は不潔になりやすいので,部分的に洗い,拭くようにする(皮膚の弱い乳幼児は, 身体をウェットティッシュで拭く場合,アルコール成分でかぶれることがあるので注意する).
  • 乳児は,おむつをこまめに交換できなかったり,沐浴できなかったりするために, 清潔が保ちにくく,おむつかぶれを起こしやすい.短時間おむつを外してお尻を乾燥させる,お尻だけをお湯で洗うなどするようにする(おむつの入手が困難な場合,タオルなどを使って使い捨てるなどの工夫をする).
  • 食中毒だけではなく,胃腸炎やインフルエンザ様症状,麻疹や水痘などの伝染性疾患が発生することもあり得ると心得る.

⑤排泄について

  • 災害時には,トイレに行くのを我慢するために,水分を控える傾向にある.適度に水分を補給する.

⑥睡眠・休息について

  • 不眠,暗くなると怖いなどの不安が強い時は,医師に相談し薬剤の使用も検討する.

⑦避難所での生活について

  • 気疲れや人間関係のストレスを感じ,避難所などで子どもが泣き止まず周囲に気を 遣う場合がある.1 人で思いこまず,感じていることを話し合えるような機会を作り, 子どもをもつ家族の部屋を用意する,あるいはストレスを和らげるために子どもを 遊ばせる時間を作るなどの環境を作る.
  • 妊婦,褥婦は,一般の人に比べて血栓ができやすいと言われており,「エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)」にならないよう,水分を適度に取り,屈伸運動・散歩など身体を時々動かして血液の循環をよくする.熊本地震の際は,下肢静脈エコーによるサーベイランスが行われた.

⑧ボランティアの活用について

  • 災害時は水や物を運搬するなど,交通手段が乏しいため長時間歩くなど身体に負担がかかるので,積極的にボランティアに手助けを依頼,また,子どもと遊ぶことをボランティアに依頼するなどの調整を図る.

⑨救援物資などについて

  • 食料(アレルギー対応食品含む),離乳食,粉ミルク,おむつなどの物資については,避難所などごとに必要量を把握しておく.

 

 これらの支援を行いながら,避難所の情報を災害対策本部の医療調整本部にしっかりと伝達することにより,避難場所の調整,物資の調達,避難所の環境改善,支援チームの派遣などきめ細やかな支援を行うことが可能となる.また,避難所であっても規則正しい生活を基本として,精神的なサポートも心がけ,必要に応じて災害派遣精神医療チーム(DPAT)を始めとした「こころのケア」の支援も活用したい(57 頁参照).もちろん,妊産婦に対して,パンフレットなどを通して自らセルフチェックを行い行動できるように支援することも重要である.