1.損害賠償責任(民事責任)が認められる要件(付録用語解説参照)

 民事事件では,不法行為,診療契約上の債務不履行があったなどとして,主として金銭的な損害賠償請求という形で責任が追及される.具体的には,①過失,②損害結果の発生,③因果関係という3つの要件を満たす場合に,民事責任(損害賠償責任)が認められる.

 医療訴訟において,このうちの①過失の判断基準は,「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」であるとされている.

 予見(ある事象が起こる事を見通し)と回避(不都合な事態にならないようにする)が,過失の基本的な検討事項である.裁判所は,記録や証言,第三者の意見を総合して事実を認定した上,予見可能性,回避可能性を踏まえて過失を検討する.

 そこで,1つの仮説例として,歴史上よく知られたタイタニック号の沈没事故を例にとり,予見と回避,「事実認定」について説明する.