10.リンパ浮腫

(1)リンパ浮腫とは

・ リンパ浮腫は,何らかの理由でリンパ管内に回収されなかった,アルブミンなどの蛋白質を高濃度に含んだ体液が間質に貯留したもので,原因が明らかではない原発性(一次性)と続発性(二次性)に大別される.
・ がん患者に生じるリンパ浮腫の大半は,続発性に分類され,がんの手術によるリンパ節郭清や放射線治療に起因する四肢のリンパ浮腫である.

(2)リンパ浮腫への対応

・ 診断は,国際リンパ学会でリンパシンチグラフィが確定診断を得るために最も有用であるといわれているが,わが国では保険収載されていないため,日常診療では,診断や治療評価には四肢周径の測定が用いられている(図20).
・ リンパ浮腫病期分類は,表19 に示すとおりである.

 

・ 治療方法としては,日常生活の注意事項を守ること,スキンケア,用手的ドレナージ,圧迫療法,圧迫下での運動を組み合わせた“複合的理学療法”が推奨される.

(3)予防法

・ リンパ浮腫は一度発症すると,完治を目指すことは難しいため,リンパ浮腫の発症予防していくことが重要である.
・ 手術に関連した続発性のリンパ浮腫に関しては,2008 年度より,予防方法について具体的に指導することにより,リンパ浮腫指導管理料が診療報酬として加算ができるようになった.
・ 発症予防のために最も重要なのは,炎症の予防・改善である.
リンパ浮腫は,高蛋白質を含む細胞外液が皮下間質組織に貯留することにより,細菌感染への抵抗性が低下すると言われている.炎症は,リンパ浮腫の悪化を促進するだけでなく,リンパ浮腫発症のリスクも増加させる.そのため,外傷や虫刺されなど,皮膚障害に留意することが必要である.発症予防のためのセルフマッサージの有効性については,確立したエビデンスが存在するわけではない.
・ 運動療法は,リンパ浮腫を発症した症例が弾性ストッキングやスリーブを着用した状況下で,筋ポンプを利用したリンパドレナージである.四肢を動かす運動をすることで,関節可動域の改善,患肢の運動能力を向上させると言われている.

(4)日常生活の注意事項

1 )むくみの早期発見を心掛けること
・ 婦人科がんでは,下腹部,陰部,脚の付け根(太もも)のあたりが初期の段階でむくみが生じやすい.そのため,上記の部位の静脈の見え方,皮膚の厚みなどを観察し,むくみや左右差がないかを確かめるように指導する.
2 )スキンケアを行うこと
・ リンパ浮腫に対するスキンケアは広く行われており,リンパ浮腫増悪予防に対する有効性に臨床的合意はあるものの,増悪予防に対するスキンケア単独での有効性を検討した報告は少ない.推奨する方法としては下記のものがある.
・ 皮膚を清潔にする.
・ 皮膚の乾燥を防ぐ:皮膚が乾燥すると,皮膚のバリア機能が低下し,細菌感染を起こしやすくなる.そのため保湿薬を使用して常にうるおいのある状態を保つ.
・ 皮膚を傷つけない.
●擦り傷,切り傷,ペットによるひっかき傷に注意する.
●かみそりを避ける.
●鍼・灸・刺激の強いマッサージを避ける.
●過度の日焼けに注意.
●できるだけ長袖,長ズボンなど皮膚を露出しないように工夫する.
3 )その他
・ 体重の増加に注意:末梢のリンパ管は皮下脂肪の中を通っている.側副路を形成しようとしているリンパ管が脂肪により圧迫を受け,側副路形成がうまくいかなくなるため.
※ 乳癌あるいはその治療によって起こる上肢リンパ浮腫は危険因子であるが,下肢リンパ浮腫については,肥満とリンパ浮腫が関連するという論文は現在のところない.
・ なるべく重い荷物は持たない.
・ 衣類・装飾品による締め付けに注意:特に靴下やストッキング,普段履きの靴などによって締め付けが生じている場合がある.できるだけリンパ管の流れを阻害しないような服装や靴を選択する.

文献
1) がん診療ガイドライン,リンパ浮腫.日本癌治療学会.<http://jsco-cpg.jp/guideline/31.html>(2020 年1 月
28 日閲覧).
2)リンパ浮腫診療ガイドライン2018 年版.日本リンパ浮腫学会,金原出版.