12.交通事故
ポイント
- 妊婦の交通事故では,軽度の打撲でも常位胎盤早期剝離を発症することがある.また受傷後時間が経ってから発症することもあることに留意する.
- 重症外傷の妊婦では,母体の循環と酸素化を最適化することが最も重要であり,胎児の治療にもつながる.
- 腹部エコー(FASO)にて母体と胎児の状態を確認する.
症例
26歳女性.3妊1産で既往歴は特になし.妊娠35週5日午前8時20分頃,母が運転する時速30㎞/hrで走行する普通乗用車の助手席に座っていたところ,居眠り運転の時速60㎞/hrで走行する普通乗用車が対向車線からはみ出し正面衝突となった.エアバックは作動し,シートベルトは正しく着用していた.衝突後は自力で車外へ脱出し救助要請を行い,救急搬送となった.
来院時,自覚症状は胸部痛のみであり,腹部の打撲があったかどうかは不明であった.シートベルト痕を認めなかった.血圧126/74mmHg,脈拍98/分,体温36.4℃,呼吸数18回/分,SpO298%,意識は清明であった.明らかな外傷は認めないものの胸部痛が強く,レントゲン検査にて胸骨骨折が疑われ鎮痛薬にて加療された.腹部はやわらかく,圧痛を認めなかった.超音波検査にて胎児心拍は正常であり,明らかな胎盤肥厚や胎盤後血種を認めなかった.ダグラス窩,モリソン窩,脾腎境界に腹水を認めず,下大静脈径は16mmで呼吸性変動を伴っていた.胎児心拍数陣痛図(CTG:cardiotocogram)にて胎児心拍はreassuring patternであり,10分間に3回の子宮収縮を認めた.血液検査ではWBC9,100/μL,Hb12.2g/dL,Plt31.0万/μL,肝腎機能および電解質異常なし,PT11秒,APTT25.4秒,D-dimer7.8㎍/mLであった.
入院管理とし連続CTGモニタリングを行った.胎児心拍はreassuring patternであり,4時間後に子宮収縮は10分間に1回未満となったためモニタリングを終了した.午後と眠前,翌朝に超音波検査とCTGを再検し,異常所見を認めなかったため翌日昼頃に退院となった.