(2)感知~バイタルサインによる早期発見~

1)早期発見の重要性

 産科異常出血妊婦の予後をよいものにするためには,予防,急変感知,初期処置, 高次施設への搬送救命または全身管理医コール,高度処置のすべてが途切れることなくつながらなくてはならない(図7).異常出血というと,その出血に対してどのような処置が必要かということに注目しがちであるが,そもそも異常出血が発生していることに気づかなければ,処置を始めることはできない.したがって救命の連鎖の中で,異常の感知は特に重要な要素である.
出血において心停止などの危機的状況は,予想外に突然に起こるのではなく,発生前からその徴候が現れる.その徴候を早期に捉えて治療を開始すれば,危機的状況を回避することができ,母体の予後を改善できる.急変の感知,特に早期に感知することが重要である.J-CIMELSの公認講習会の1つであるJ-MELS(Japan Maternal Emergency Life-saving)ベーシックコースも,異常を早期発見することの重要性を強調している.

2)早期発見におけるバイタルサインの重要性

出血量を正確に計測することは難しい.また子宮内,腹腔内,後腹膜腔内など体外に現れない出血もある.バイタルサイン(PUBRAT)は異常出血を感知するために欠かせないツールである(表4,図8)1)
.異常出血時の早期に変化しやすいバイタルサインは,尿量,心拍数,呼吸数である.血圧が低下するのは危機的状態の直前であり,その前に異常出血を感知したい.


3)単一のバイタルサインに頼らない

バイタルサインは非常に大切であるが,1 つのバイタルサインのみに頼った判断も危険である2)
.例えば妊娠高血圧症候群の患者ではもともと血圧が高いため,異常出血しても血圧が注意や介入を要するレベルに下降しにくい.子宮内反症などで迷走神経が亢進している場合や先天性心疾患妊婦の一部は,心拍数は上昇しにくい.他のバイタルサインや出血量,出血源の所見,皮膚湿潤の有無などを合わせて総合的な判断をすることが求められる.

文献
1)Mhyre JM, et al. The maternal early warning criteria. Obstet Gynecol 2014; 124: 782-6. 2)妊産婦死亡症例検討評価委員会,日本産婦人科医会.母体安全への提言.2015; 29-35.