2.チーム医療

(1)緩和ケアチームの定義

・ 一般病床に入院する悪性腫瘍,後天性免疫不全症候群または末期心不全の患者のうち,疼痛,倦怠感,呼吸困難などの身体的症状または不安,抑うつなどの精神症状をもつ者に対して,該当患者の同意に基づき,症状緩和に係るチームである.

(2)緩和ケアチームの実際

・ 以下,筆者の在籍している緩和ケアチームを例として,活動内容などを示す.
1 )構成メンバー
・ チームメンバーは緩和ケア研修会を修了したメンバーで構成されている.
緩和ケア医 2 名(専従),精神科医 2 名(専任),看護師 専従 1 名,専任 1 名,薬剤師(専任 2 名),管理栄養士
 専従は,業務の80%を,専任は業務の50%を活動に充てている.
・ 保険診療の算定に必要ではないが,都のがん診療連携拠点病院などの指定に関する調査で挙げられた資格を以下に示す.
身体症状を担当する医師;緩和医療学会専門医,精神症状を担当する医師:サイコオンコロジー学会認定登録精神腫瘍医,専従看護師:緩和ケア認定看護師,専任薬剤師:緩和薬物療法認定薬剤師,管理栄養士:がん病態専門管理栄養士がある.
2 )活動方針
・ コンサルテーションスタイルを重んじる
・ 主治医にならない,処方はしない
・ 担当医・病棟スタッフの治療やケアを否定しない
・ 担当医・病棟スタッフの関係を崩さないようにする
・ 提案した治療やケアは担当医・病棟スタッフが最終判断するが,チームは問題解決の過程と結果を共有する
・ 標準治療を心がける
3 )業務
・ 診療点数早見表 2018 年4 月版を参考に業務を行っている.
・ 初回の診療時に,医師および薬剤師などと共同の上,緩和ケア実施計画書(日本緩和医療学会 専門的・横断的緩和ケア推進委員会,緩和ケアチーム活動の手引き第 2 版,28,2013)を作成する(図37).
・ 病棟看護師から,その内容を患者に説明し,同意の署名をもらい,複写を病棟クラークが診療録に添付している.
・ 具体的な業務内容を理解するのには,表38 に示した緩和ケアチームの保険診療算定要件が参考になる.

4 )1 日のスケジュール
・ 具体的な緩和ケアチームの実施状況を記載する.
8:30~10:00 緩和ケア医師,看護師,薬剤師,管理栄養士がカルテを見て,前日の提案が採用されているか,治療後の評価,現時点で苦痛症状,病棟スタッフの困りごとを確認する.
10:00~13:00 病棟回診,病棟看護師・病棟担当医師の朝の診察が終わり,苦痛症状に対して協議が可能なゴールデンタイムと考えている.病棟リーダー看護師から,苦痛症状,病棟スタッフが困っていることを聴取し,患者を直接診察する.医師は苦痛症状の診察,病状説明,看護師から苦痛症状への自己対応の提案,薬剤師から薬の説明,効果,作用時間,使い方を,管理栄養士からは食形態の変更,補助食品の提案をする.診察後,病棟リーダー看護師へ苦痛症状に対する診断,治療・ケアの提案,必要時に医師への連絡を行っている(症状緩和に係るカンファレンス).リーダー看護師には,必ず診察後,診断,提案事項について報告することが大切であり,丁寧に時間をかけて説明している.医師への相談は,勤務表を確認し,外来業務,処置がない時間帯に連絡している.治療の主役は,担当医,病棟看護師であり,チームが日常業務の中断,障害にならないように心掛けている.
14:00~ 初診対応,精神科医師との回診.専従業務である精神科医,薬剤師の負担にならないように,緩和ケアチームでの活動は半日業務にしている.管理栄養士は随時,電話で相談,介入をお願いしている.

(3)アセスメントの実際

1 ) OPTIM(outreach palliative care trial of integrated regional model)の緩和ケアチーム初期アセスメントシートで評価(図38)
・ OPTIM プロジェクト(厚生労働省「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」http://gankanwa.umin.jp/)で,ダウンロード可能なアセスメントシートを含む様々なツール(生活のしやすさに関する質問票,疼痛の評価シートなど)がある.
・ ツールは地域の医療者が,がん緩和ケアの専門家と相談しながら使用することを前提として作成されているが,ツールを使用することによってチーム内で統一した評価ができるようになる.

2 )STAS(support team assessment schedule)
・ ホスピス・緩和ケアにおける評価尺度である.医師,看護師など医療専門職による「他者評価」という方法をとり,患者に負担を与えないという利点がある.
・ STAS-J は,「痛みのコントロール」「症状が患者に及ぼす影響」「患者の不安」「家族の不安」「患者の病状認識」「家族の病状認識」「患者と家族のコミュニケーション」「医療専門職間のコミュニケーション」「患者・家族に対する医療専門職とのコミュニケーション」の9 項目からなる.
・ STAS-J(STAS 日本語版)スコアリングマニュアルは,(公財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団から発行されている(https://www.hospat.org/stas-j.html からダウンロード可能)アセスメントシートでは,11 項目が採用されている.
3 )終了評価は,緩和医療学会緩和ケアチーム報告書に沿って評価している
・ 依頼時期(診断から初期治療前,がん治療中,がん治療終了後),介入内容(疼痛,疼痛以外の身体症状,精神症状,家族ケア,倫理的問題(鎮静,意思決定支援など),地域との連携・退院支援),転帰(介入終了(生存),緩和ケア病棟転院,その他の転院,退院(死亡退院,転院は含まない),在宅ケア導入,死亡退院)で評価している.

(4)緩和ケアチームの活動の事例

・ 事例は,43 歳の子宮頸癌の患者で,準広汎子宮全摘術後に肝臓,骨盤内・傍大動脈リンパ節に再発を認め,化学療法および放射線療法を施行している.胸椎転移に対して放射線治療を行った時点で,緩和ケアチームの介入を開始した.
・ その時点では,夫は積極的治療を希望しており,緩和ケア病棟への転棟は希望されなかった.主治医としては,夫の希望の治療継続かなえてあげたいとの思いがあった.病棟看護師は,本人の希望を確認できないまま緩和ケア病棟に転棟できず一般病棟での看取りになるのではと心配していた.緩和ケアチームは本人の希望を聞き出し,病棟看護師へ伝え主治医との情報共有を勧めた.このことをきっかけに緩和ケア病棟への転院が進んだと考えている.
・ 緩和ケア病棟へ転院の方針になると,夫が自宅での療養が困難ではないかと心配になった.施設の面では,転院先のホスピス病棟より緩和ケア病棟の方が築年数も浅くきれいであるように感じていた.本人が大切にしていること,子どもたちが学校の帰りに会いに来てくれる,調子がいい時には自宅へ外出,外泊したいとの言葉を聞き出し,病棟スタッフに伝えた.病棟スタッフと本人,夫が相談し,本人の希望に沿った転院という結論になるように支援したと考えている.
・ 転院 2 週間後,永眠.