2.入院妊婦への対応
1.入院患者のトリアージ
①病院避難が必要な場合
- 施設の被災状況が深刻で入院診療の継続ができない場合は,災害対策本部に連絡し, 院内患者の受け入れ可能施設への搬送が必要となる.
- 動ける患者には退院を促す.新生児を連れての褥婦の退院や,自宅も被災している場合は,地域内の母児のケアを担う避難所を案内する.
- 授乳室などの母子専用スペースがある一般避難所や,妊産婦や乳幼児専用の母子避難所など,地域によって異なるため,事前に把握しておく.
- 各患者の退院先・連絡先は必ず紙ベースで記録に残す.
②自力で病院運営を維持する(籠城)場合
- 退院可能な患者は退院を検討する.
2.籠城時の入院患者への医療行為
電気・水道・ガスなどのインフラや資器材に制約がある.これらを使用せずに済む工夫が求められる(図31).
- 停電時には,児心音の確認は分娩監視装置の代わりに電池式の胎児心音計や充電式のポータブルエコーで代用する.電池式や充電式の器機は,停電時に使用できるよう日頃から点検を行っておく .
- 可能ならば持続点滴は内服に切り替える.
- 週数が大きければ聴診器といった電源を要さない方法で胎児の心音確認も可能である(かなり音は小さいため,日常からの練習が必要).
- 胎動の有無を妊婦自身に意識してもらうことも,被災時における胎児の well-being 評価の手段として有用である.
3.分娩対応
設備や環境が整っていない状況では,病院前分娩と同様の異常分娩として扱い,すべての児に NCPR の蘇生の初期処置を実施した方が安全である.
①経腟分娩
- 分娩監視装置が使用できない場合,乾電池式の胎児心音計や充電式のポータブルエコーで間欠的に心音を聴取して代用する.妊娠 9 カ月以上であれば聴診器などで児心音確認も可能である(かなり音は小さい.日常からの練習が必要).
- 電源を使わずに補助経腟分娩をできる器具(キウイ吸引カップⓇ・鉗子)を用意しておく.
- 特に冬場には,分娩エリアはストーブなどでできる限り加温する.
- 分娩後に母児の状態が安定していれば,保温目的も兼ねて早期母子接触を行う.
②帝王切開
基本的に設備が整っていない状態での帝王切開はすべきではない.可能であれば高次施設に搬送するのが望ましい.しかし超急性期から急性期の時点では,他施設に迅速な搬送ができず,清潔を確保できない現場で帝王切開をせざるを得ない状況もあり得る.停電・断水下では,院内の薬剤や資器材の在庫を活用してできるだけ清潔に手術を行う.以下のような工夫が可能である.
- 使った資器材を洗浄する水がないため,あれば使い捨ての手術器具やガウン,ドレープ,それもなければビニールエプロンを用いる.
- 手洗いは速乾性の手指消毒剤や滅菌手袋を二重にするなどで準清潔にはできる.
- ジアミトールなどで術野の消毒が可能である.
- 準清潔条件下での帝王切開では,感染予防の抗菌薬点滴は積極的に行う.
- 電気メスでの創部止血ができない場合は,挟鉗と結紮で止血をする.
- 出血量を抑えるために,オキシトシンを用いて積極的に子宮収縮を促し,弛緩出血を予防する.
- 意識レベルやバイタル評価担当のスタッフを用意し,手動であっても定期的にバイタルの計測を行って,術中の母体の全身状態を確認する.