2.物資支援の実際

 物資の支援は,発災後1週間前後,すなわち急性期(72時間~1週間)後半から亜急性期(1週間から1カ月)にかけて必要になる.通常,各都道府県や内閣府には,生活に必要な支援物資が確保されており,その中には一部の医療用キットも含まれている. しかし,必ずしも産婦人科に特化した分娩セットや帝王切開セットをはじめ,新生児 用ミルクなどが充足しているわけではなく,民間レベルの支援が必要になる.

 物資の支援で重要なのは情報の共有である.日本産科婦人科学会の大規模災害対策情報システム(PEACE)は,これを可能にするツールである.災害時,PEACE は災害モードとなり,日本産科婦人科学会ホームページのトップ画面から学会あるいはe学会アドレスとパスワードで閲覧,入力が可能になる.

 

1.災害発生地域での対応(図21)

 発災後被災地の分娩取扱施設では,まず,自施設被害の程度を把握した上で,PEACEに外来診療,分娩取扱の可否など施設情報の入力を行う.各都道府県,学会, 医会の災害対策本部や災害時小児・周産期リエゾンはこれらの情報に基づき対応するため,この情報入力は基幹施設となる周産期母子医療センターのみならず,有床診療 所を含めたすべての分娩取扱施設においても重要である.

 また,PEACEでは各被災施設からの物資の過不足状況を適宜,発信できる情報掲示板がある.各対策本部と災害時小児・周産期リエゾンはリアルタイムでこれらをフォローしており,確実に各施設の発信は共有される.

 さらに,PEACEでは患者搬送の要請を行うことができる.施設機能の情報に基づき災害時小児・周産期リエゾンが搬送調整を行うが,患者搬送支援メッセージを活用することで,迅速,かつ,きめ細かな個別対応が可能になる.

 

2.災害発生地域外での対応

 災害時には様々な情報が氾濫する.これまで主体となってきたのは電子メールで,医会対策本部・常務理事会メール,学会災害対策・復興委員会メール,MFICU 協議会メールなどが拡張・連結されたメーリングリストを中心に情報交換が行われてきた.しかし,被災地の個別施設との連絡が必ずしも円滑に行えたわけではない.

 実際,東日本大震災のような広範囲な災害では,東京,名古屋,大阪などから複数回,様々な支援物資が各被災県の基幹施設に搬送されたが,需要と供給の関係は必ずしも適切とは言えない部分もあった.一方,熊本地震では,初めて他県から学会主導で災害時小児・周産期リエゾンが県庁の対策本部に入り,これらの対応に当たった. 前述のPEACEも初めて投入され,リエゾンからの詳細な情報を基に日本産婦人科医会本部では隣県の福岡県や長崎県産婦人科医会の協力により,ある程度適切な物資の供給が実施された.災害規模は異なるものの,災害時小児・周産期リエゾンの重要性とPEACEの有用性が示された.