2.過去の災害からの教訓
人口動態統計より,災害時には日本の乳児死亡率が跳ね上がることが分かる(図36)1,2).
また,阪神淡路大震災や東日本大震災では乳児死亡の多くが病院外で起こっており,災害時の母子支援は病院外での救命や救護が基本となるというエビデンスも出ている(図37)3).例えば1995年の阪神淡路大震災当日に犠牲となった乳児は22名で,病院で死亡したのがそのうち14%,自宅68%,その他18%であった.2011年の東日本大震災当日に被災三県(宮城,岩手,福島)で犠牲となった乳児は70名で,病院で死亡したのはそのうち1.4%,自宅4.3%,その他の場所は94.3%であり,東日本大震災当日を除く2011年総計93名の死亡場所(病院91.4%,自宅6.5%,その他1.1%)とは有意に異なっていた.つまり,母子の災害死を防ごうと思うのであれば,病院ではなく地域における防災対策にもっと力点を置くべきであることが分かる.
災害時の母子死亡を減らすためのヒントは,実際の震災体験の中にあった.10年前の3月,筆者は,東日本大震災の被災地支援に奔走していた.子の夜泣きを負い目に感じたり,授乳を躊躇したりする妊産婦の声に耳を傾け,自宅を失って住むところがないために避難所に住まざるを得ないのに,そこでも居場所がないように感じる多くの子育て世代と出会い,わがことのように心を痛めた.その被災地で,多くの妊産婦や保健師にヒアリングを行い,「震災前に何を準備していたら良かったのか」「どんな情報が役立ったか」を調査してまとめ,いざという時に使える「あかちゃんとママを守る防災ノート」という啓発パンフレットを作成・発行し(図38)4),あちこちの研修や講義などで利用してきた.現在は全国の自治体ホームページやニュースサイトなどで取り上げられるようになり,誰でも気軽に利用できるようになっている.