(3)子宮内反症(Uterine inversion)

1)病態

・子宮内反とは,子宮が内膜面を外方に反転した状態をいう.子宮が裏返しになり子宮内膜面が腟内または腟外に露出し,胎盤剝離面から出血が続く状態である.
・病因は外因性と内因性がある.ほとんどが外因性で,胎盤剝離前の臍帯牽引によることがもっとも多く,他のリスク因子として癒着胎盤や過短臍帯,臍帯巻絡がある.内因性のものとしては,子宮奇形に伴う子宮筋の弛緩,多胎妊娠,巨大児,羊水過多などの子宮筋が弛緩した状態に起こりやすい.また,外因性と内因性が複合して発症する場合もある.

2)検査・診断

・反転の程度により全子宮内反(反転した子宮体部が外子宮口を越えて子宮内面が露出された状態),不全子宮内反(反転した子宮体部が外子宮口を越えない状態),子宮圧痕(子宮底がわずかに陥没した状態)に分類される(図23).・臨床症状としては,分娩直後の強烈な疼痛と異常出血または内診や腹壁触知の違和感などで気付かれる場合が多い.大出血による出血性ショックと腹膜刺激による神経原性ショックを来す.しかしながら,子宮内反症は発症初期には迷走神経反射により徐脈になることもあり,SIが上がらないこともある.

・診断は,触診,視診,画像診断(主として超音波断層法)で行う.
・全子宮内反は反転した子宮内膜面が露出した状態であるため,比較的容易に診断できる.ただし,経験がないと「通常より大きな胎盤が娩出されてきた」「胎盤娩出後にまた,もう1つ胎盤が出てきた」「胎盤娩出後に子宮筋腫がでてきた」「通常より出血が多く弛緩出血であろう」などと思いこみ,診断が遅れることがある.
・不全子宮内反は反転した子宮内膜面が直視下にみえないので,視診による診断は困難で,触診や画像診断で診断する.まずは,子宮内反症の可能性を考えることが重要である.もし不完全な子宮内反症であり,子宮口から子宮が飛び出していない場合はなおさらである.内診では(水を吸ったスポンジのような)腫瘤を触れ,腹部の触診では子宮底が触れないことで診断可能である.
・不完全子宮内反症は子宮筋腫分娩と間違えることがあり得るので,超音波断層法で診断する.経腹超音波では子宮が観察しにくいことや内膜がU字状にみえることで診断可能である.鑑別診断としては,頸管裂傷,弛緩出血,子宮下垂または脱,腟壁血腫,胎盤遺残,副胎盤などがあがる.

3 )治療

・子宮内反症に対する治療の目的は3つである.子宮を正しい位置に整復すること,出血とショックに対応すること,子宮内反症の再発を予防することである.子宮内反症を疑ったら,すぐに以下のことをできるだけ同時に進めていく必要がある(図24).

①産科医,麻酔科医,救命医を含む人員を直ちに呼び寄せる.また,手術室での用手的整復も考慮し,手術の準備を行う.
②子宮収縮剤の使用を一旦中止し,直ちに血液の準備をはじめる.
③太めの静脈内カテーテルを確保し,輸血用の血液が到着するのを待つ間,血液量減少に対する急速な電解質輸液を開始する.
④もし内反した直後の子宮が収縮しておらず,完全には引っ込んでおらず,かつ胎盤が既に剝離している場合は,子宮底部を手掌と手指で腟壁の長軸方向に押し上げることで,整復できることが多い(図25).
また,用手的に整復を行う際には,可能ならば抗菌薬の予防的投与を行うことが望ましい.

⑤もし胎盤がまだ付着したままの場合は,輸液経路より子宮収縮抑制薬が投与されるまでは,胎盤を剝離しない.胎盤剝離は原則として子宮内反が整復されてから行う.子宮を弛緩させ,位置の矯正を行うために子宮収縮抑制薬の経静脈内投与が勧められる(表11).もしこれらで十分な弛緩が得られなかったら,即効性の吸入麻酔薬を投与する.胎盤剝離後は,手順の4と同様の手技を行う.
⑥一旦子宮が正常の位置に戻ったら,子宮収縮抑制薬の投与を中止する.その後オキシトシンを投与し,その他の子宮収縮薬を投与する.一方では,子宮収縮が良好になるまでさらなる出血を抑えるために,術者は子宮双手圧迫を行いながら,子宮を正常な解剖学的位置に保持する.そして,再度内反が起こらないかどうか,経腟的にも子宮をチェックする.子宮が元に戻った後に,再度内反することがあるため,整復後も十分な経過観察を行う.子宮内バルーンタンポナーデにより内反の再発を予防し,子宮収縮をうながす方法もある.

⑦用手的整復術が不成功の場合,観血的整復術(手術)を全身麻酔下(セボフルレンなどを用いる)に行う.子宮収縮抑制薬を使用し,子宮を下方から押し上げ,上方から引っ張ることを同時に行うことで,子宮が元の位置に戻る.鉗子をそれぞれの円靱帯に装着し上方に牽引する方法は,有用である.これらの手技はHuntington手術と呼ばれ,開腹(あるいは腹腔鏡下で)して,内反漏斗部の子宮体表面を鉗子で繰り返し牽引して整復する(図26).
もし,依然として絞扼輪により子宮が元の位置に戻らなければ,絞扼輪を通るよう子宮後壁に縦切開を加え(Haultain 切開),内方から子宮底部を露出することにより,子宮の内反を整復する.子宮が元に戻った後は,子宮収縮抑制薬の投与を中止し,オキシトシンやその他の子宮収縮薬を投与した上で,子宮の切開部を修復する.
これらの整復法を試みても整復が困難な場合(または時間がかなり経過しているような症例)や,整復可能であってもDICの発症により止血が困難な場合には,子宮摘出を施行せざるを得ない場合もある.