(3)在留外国人について
1)在留外国人の特徴
在留外国人とは90日を越えて日本に滞在する外国人のことで,基本住民登録して日本の健康保険制度に加入しなければならない.したがって,日本語が不自由で,日本と異なった文化背景の外国人でも,在留外国人に限れば日本人と同じ保険診療を受けることができる.
在留外国人は近年増加している.在留外国人の年代別人数は20代をピークにゆっくりと減少するが,30代以降は男性よりも女性の数が多くなっている(図6).この年齢構成は日本人と全く異なる.
法務省の統計によると国籍は83%がアジア,10%が南米,残りの数%がヨーロッパ・北米・アフリカである(図7).
これまで在留外国人は旧植民地出身者(韓国・朝鮮,台湾)に対する特別永住者が多かったが,現在は高齢化が進み減少している.1990年の入管法改正で,南米日系人に対する労働制限のない滞在資格(定住者,配偶者も同様)が新設された.2008年リーマンショック後の帰国政策もあり,現在はピーク時の半分程度となっている.近年はベトナム,ネパール,インドネシアなど東南アジア,東アジアからの在留外国人の増加が著しい.これは文部科学省の受け入れ拡充政策に伴う日本語学校や専門学校への留学生や,2008年の入管法改正後の技能実習生の著明な増加によると考える(図8).2019年度から始まった特定技能制度もあり,今後も在留外国人の増加が予想されている.
2 )在留外国人の受診について
厚生労働省の調査(医療機関における外国人旅行者及び在留外国人受入れ体制等の実態調査結果2016年)によると,外国人患者の多い診療科は内科(33%),外科(16.2%),整形外科(17.7%)であった.産科(3.3%)と婦人科(2.2%)は,救急受診(9.4%)や小児科(4.7%)の次に多かった.
3 )在留外国人と出産について
入院対応だけでなく,外来定期妊婦健診も含めると,医療機関で外国人患者への総合的なサポートが最も必要な診療科が産科である.
両親が外国人である子どもの平成29年度の出生数は16,666人であり,平成21年度より約35%増加している(図9).父親が日本人で母親が外国人である場合の出生数は近年低下している.一方「その他の国」の妊婦は増加しており,妊婦の国籍は多様化している.
全出産の2.7%程度が外国人妊婦によると推測され,外国人妊婦の出産が日常となっている医療機関も珍しくはない.上記のように両親とも外国人であることが多く,日本語能力が不十分である場合や,日本の文化・環境・制度に慣れていないこともある.外国人妊婦へ適切な妊婦健診を紹介することにより,無健診者による飛び込み出産の回避や,肝炎キャリア母子感染などの感染対策,妊娠高血圧症候群などの早期発見が可能となる.