2.実際の行動

 夜間の台風通過であったため翌朝まで被害の大きさを知ることがなかったことが初動を遅らせた要因である.千葉県で災害対策本部が立ち上がったのは同日の 10 時前後である.これは交通網の遮断により県職員の登庁に時間を要したことも要因の1つとなっている.またその後の被害状況の把握があまりにも広範囲であり全容を把握することが極めて困難であったことで,さらに対応を遅らせる要因となったと考えられる.災害医療対応の原則であるCSCATTT(Command & Control,Safety(Self,Scene,Survivor),Communication,Assessment,Triage,Treatment,Transport,7頁参照)において重要な指揮命令系統(Command)の設置と情報収集(Communication)の遅れが全体の対応を遅延させた(7頁表1参照).分娩医療機関に対する対応については母体搬送受け入れ医療機関である総合 / 地域周産期母子医療センターと周産期協力医療機関については同日の夕方までに診療状況を問い合わせ自家発電での運用があるものの通常どおりであり,受け入れ制限もしていないことを確認した.数件の分娩医療機関で停電のため周産期母子医療センターに協力を求めて分娩時には患者受け入れを依頼しているところがあることを把握したが,大きな混乱はないという判断であった.翌日以降に初日は把握できなかった医療機関において停電が継続しているという情報が県庁経由で入り,分娩は避けられないので可能な限り早期に電源車を手配することを災害医療コーディネーターに進言をした.その後電源車が手配されたが直後に電源が復旧した.最終的には患者影響は極めて限定的ではあったが以下のような課題が提示された.

1.災害医療の要である本部(災害時小児周産期リエゾンを含む)が早期に立ち上がらず,

その後災害時周産期リエゾンが本部に入るまでも時間を要した.

2.分娩医療機関の稼働状況の把握が十分に行われなかった.また,広域災害救急医療情報システム(EMIS)/ 大規模災害対策情報システム(PEACE)の情報入力がまだ浸透していなかったため,すべての分娩医療機関の稼働状況を把握には膨大な時間を要した.

3.一部の分娩医療機関において長期に電力喪失の状況が継続した.