4.免疫学的異常

(1)抗リン脂質抗体症候群

 抗リン脂質抗体症候群(APS:Antiphospholipid syndrome)は,動脈・静脈血栓症ならびに習慣流産・妊娠高血圧症候群などの産科合併症を主要な臨床所見とし,抗リン脂質抗体が検出されることにより診断される(65 頁参照).

(2)NK 細胞・T 細胞異常

○不育症の約60 %を占めるリスク因子不明不育症の中にはNK 細胞やT 細胞などの免疫学的異常,すなわち胎児が母体により異物と認識され,胎児が拒絶されている病態が含まれていると思われる.
○NK 細胞活性とTh 1 /Th 2 比は研究段階ではあるがコマーシャルベースで利用できる.いずれも保険適用はない.
○子宮NK(uNK)細胞は,その細胞表面にCD 56 を強発現するCD 56bright 細胞が主体である
○末梢血NK(pNK)細胞はCD 56 の発現が弱いCD 56dim 細胞が主体である.
○pNK 細胞とuNK 細胞は,その機能も異なり,pNK 細胞活性を測定することが子宮内環境を反映しているわけではないことを念頭に置く.
○NK 細胞活性はK 562 を標的細胞とした細胞傷害の程度で表される.不育症症例ではNK 細胞活性が高値(> 40%)となることがある.
○NK 細胞活性高値不育症に対する,免疫グロブリン療法,イントラリピッド療法の有効性が報告されている.またリスク因子不明不育症に対する免疫グロブリン療法による治験が現在,本邦で進行中である.
○T 細胞やNK 細胞はTNF-α やIFN-γ などのタイプ1 サイトカインとIL- 4 やIL- 10 などのタイプ2 サイトカインを産生する.
○一般に正常妊娠ではタイプ2 が有意であるが,不育症ではタイプ1 が有意になるためIFN-γ 産生T 細胞とIL- 4 産生T 細胞との比で表されるTh 1 /Th 2 比は,不育症症例で上昇している可能性がある.