4. 流死産絨毛・胎児組織(POC:product of conception)染色体検査 (POC 検査)
(1)提出の必要性とIC 方法
1 )染色体異常と流産の関係
○早期流産は高頻度で生じる現象であるが,その主な原因は胚の染色体の数的あるいは構造的異常が原因である.
○早期流産後の絨毛・胎児組織(POC:product of conception)に対して染色体検査(以下POC 検査)を行うと,G 分染法では60~80%,また,SNP マイクロアレイ法など微細構造異常まで確認できる検査法ではそれ以上の高頻度で何らかの染色体の異常が確認される.
○高年齢の女性では流産率が高くなるが,そうした高年齢女性ほど流産の原因に占める染色体異常の割合が高くなる.その理由として卵子の老化に伴う胚の染色体異常頻度が上昇することに起因すると推測されている.
2 )流産の原因検索としてのPOC 検査の意義
○流産(もしくは死産)において,POC 検査を行うことは原因を知るための手がかりとなる.
○特に,流死産を繰り返す不育症患者では流死産の原因が胚の染色体異常に起因した胎児側の要因であるのか,何らかの免疫学的,内分泌学的異常に起因した母体側の要因であるのかを判別するためにPOC 検査から得られる情報の価値は大きい.
○POC 検査の結果,絨毛(あるいは胎児)染色体に数的異常もしくは構造異常が見つかった場合にはそれが流産の原因であった可能性が非常に高い.
○POC 検査の異常の内容が不均衡型転座である際には,流産の原因の探索としてさらに夫婦のそれぞれの染色体検査を行う選択肢が生じる.それにより,夫婦のいずれかが均衡型転座の保因者で,それに起因して胚に不均衡型転座が生じて流産を生じている場合と夫婦が正常染色体で胚に新規の不均衡型転座が生じた(de novo)場合の双方の可能性について見極めておくことで,その後の妊娠における流産再発の見通しに関する情報提供ができる.
○POC 検査で染色体異常がない場合には,母体側の要因に起因した流産である可能性が高いという判断を後押しする.
3 )POC 検査に関する注意点
○早期流産では胎児組織が少ないため,絨毛部分(できれば胎児面に近い部分)のみを確実に選定して提出する.
○脱落膜や凝血塊による母体血の混入が多いと,胎児ではなく母体の染色体を判定してしまう.
○子宮内容除去術により摘出する場合には絨毛部分の選択は比較的容易であるが,自然排出された子宮内容物は絨毛部分の選定が困難となる場合も多いため特に注意が必要である.
○G 分染法によるPOC 検査では提出された絨毛組織の細胞を培養,増殖させて検査を行う必要があるため,なるべく早く(数日以内)検査に提出することが望ましく,絨毛組織は凍結を避け専用の培養液に浸し4℃で保存しておく必要がある.
○提出組織の状態が悪い場合には検査不能となる場合もある.ただし,SNP マイクロアレイ法では増殖不能な状態の絨毛組織であっても検査が可能である.
○現状では,POC 検査は保険適用外の検査である.検査には高額な費用の患者負担での支払いが生じる.個々の患者の状況に応じてPOC 検査から得られる情報の有用性と費用負担に関して十分な説明同意を行った上で検査の実施を行うことが肝要である.
○POC 検査の結果では染色体のモノソミー,トリソミーなど流産との因果関係の解釈が容易な数的異常以外に,モザイク,マーカー染色体や構造異常(転座,欠失,逆位など)などの遺伝医学的専門知識に基づいて流産との関連の解釈を必要とする結果が出る場合もある.さらに,POC 検査で確認され不均衡型転座の結果に基づいて夫婦の染色体検査の必要性が考慮される際,夫婦いずれかに均衡型転座が確認された場合の結果告知の方法,その後の妊娠にもたらす意味などについて事前に十分な説明を行った上で実施することが望ましい.そのため,POC 検査で解釈の難しい結果が確認された場合には必要に応じて生殖・周産期の遺伝医学的診療が可能な専門施設への紹介を行う.
○POC 検査を行うことが考慮される症例において,検査の進め方と専門外来への紹介の流れのまとめを図23 に示す.