5.呼吸不全・呼吸困難

(1)呼吸不全と呼吸困難の考え方と評価(図13)

・ がん患者において呼吸困難は頻度が高く難治性の症状の1 つである.
・ 呼吸不全と呼吸困難は必ずしも一致しない(表10).
・ 何に困っているか,がんプロセスの中で現時点の治療ゴールは何かを,患者・家族と医療チームで共有していく.

 

(2)婦人科がん患者における呼吸不全・呼吸困難の主な原因とその治療(表11)

・ 呼吸不全の原因を評価し,可逆的であれば原因に対する治療を行う.
・ 予後見通しと,侵襲性,患者の希望により適応を検討する.

(3)酸素療法(表12)

・ 低酸素血症がある患者では,酸素投与を行う.
・ 低酸素血症を伴わない呼吸困難の場合は必ずしも酸素療法の有効性が示されていないが,改善感・希望を確認しながら適応を検討する.
・ 急性呼吸不全・心不全の場合,非侵襲的人工呼吸による呼吸不全の改善が呼吸困難の緩和につながるため,状況により適応を検討する.

(4)薬物対症療法(表13)

・ がん患者の呼吸困難に対する薬物療法の第一選択はモルヒネである.
・ 不安が強い場合,またはモルヒネで効果が不十分な場合,抗不安薬を使用する.
・ ステロイドは病態に応じて漸減法で使用する.

(5)非薬物対症療法―生活の工夫・指導

・ 病気の進行プロセスに応じて,多職種でかかわり,本人家族に説明指導しておく.
・ 自己コントロール感や安心感の支援は,呼吸困難の閾値を上げるのに役立つ.

・ 栄養指導(良質のたんぱく質・脂質の積極的摂取),嚥下しやすい形態(とろみ)の工夫
・ 体動時・体動前の予防的オピオイドレスキューの利用促進
・ リハビリテーション:横隔膜呼吸(腹式呼吸)・ハッフィングの指導,呼吸と動作の同調
・ 負担をかけない排便コントロール
・ 体位の工夫(ギャッジアップ,健側を上にした側臥位など)
・ 環境の整備(低温度,扇風機などの気流など)
・ 心理サポート(リラクセーション,安心感の提供,自己コントロール感の支援など)

(6)終末期の対応

・ 最期の時が近づいてくると,喘鳴・呻吟・呼吸不規則・無呼吸時間の延長などが生じること,多くの場合傾眠がちで苦痛を感じていないことなどを家族に説明し,慌てずに見守っていくよう伝える.
・咽頭喘鳴に対しては,補液量を絞る.無理に吸引する必要はない.