5.子宮疾患

 流産原因としての子宮疾患は,先天性子宮形態異常と粘膜下筋腫などの後天的な器質性疾患に大別される.

(1)子宮形態異常

1 )子宮形態異常の分類

○胎性8 週はじめ(妊娠10 週),中腎の傍らに発生したミューラー管は,正中方向への伸展,融合,中隔吸収といった過程を経て卵管・子宮・腟上部へと分化する.
○このいずれかの過程で分化が停止すると子宮の形態異常を生ずる.
○分化停止時期が早いものから,重複子宮,双角子宮,中隔子宮,弓状子宮と分類されている.
○分類基準は明確に定まらず,以下のような諸学会の分類がある
①米国生殖医学会(AFS,現ASRM)の分類(以下AFS 分類)1998 年(図5)
・これまで広く浸透してきたが,いくつかの問題点も指摘されてきた.
・弓状子宮と中隔子宮,双角子宮の鑑別点が明確でなかった.
②欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)と欧州婦人科内視鏡学会(ESGE)の分類2013 年(図6).
・弓状子宮というカテゴリーがなくなった.
・中隔子宮と双角子宮の中間的な双角中隔子宮(bicorporeal septate uterus)のカテゴリーを設けた.
・3 D 超音波検査やMRI を行わないと最終的な診断ができず,普及の障壁となった.

③ ASRM の中隔子宮のガイドライン 2016 年(図7)
・中隔子宮と双角子宮の鑑別点を明らかにした.
・HSG や超音波検査のみで正常と中隔子宮の鑑別が可能である.
・日常診療では最も使いやすいが,双角子宮の診断には3 D 超音波検査やMRI が必要である.

2 )流産の原因としての子宮形態異常
○子宮形態異常の流早産リスクについてはいくつかのメタ解析がなされている(表4).
○中隔子宮は2 . 81 倍,双角子宮は2 . 40 倍,流早産リスクが高くなる.
○中隔子宮は早期流産,早産との関連が深く,完全中隔子宮では第2 三半期の流産も多い(メタ解析Chan ら:2011).
○子宮頸部から中隔の最大突出部までの距離(C)と中隔の長さ(D)の比(D/C)が0 . 61以上であると流産リスクが上昇するという報告がある.
○流早産のリスクになることは明らかであるが,いずれのメタ解析も分類,定義には多少ばらつきがある.

3 )子宮形態異常の外科的治療
○流産を繰り返す場合,他に原因が特定できない中隔子宮に対する子宮形成術の有用性を示す報告は多い.
○流産歴がない場合や1 回のみの流産歴では必ずしも手術を必要とはしない.
○中隔子宮に対して子宮鏡下子宮中隔切除術が行われ,よい成績が報告されている.

(2)子宮筋腫

○子宮内腔の変形や内腔の狭小化,子宮内膜の血管分布阻害,子宮筋腫核を覆う子宮内膜の炎症性変化などにより流産の原因になる.
○大きさと位置などにより妊娠に与える影響は大きく異なり,一概に論ずることはできない.
○最近のメタ解析によると,発生部位に関わらず,自然流産に対する相対リスクは
1 . 678[95% CI:1 . 373- 2 . 051,P< 0 . 001]である(Pritts ら,2009 年).
○粘膜下筋腫が存在すると自然流産発症のオッズ比は3 . 85[95 % CI:1 . 12- 13 . 27],筋層内筋腫でも1 . 34[95 % CI:1 . 04,1 . 65]となり,流産のリスクになる(Klatskyらのレビュー2008 年).
○子宮筋腫切除の効果を検証した(RCT:Randomized Controlled Trial)のコクランレビューによると,粘膜下筋腫,筋層内筋腫,およびその総計のいずれでも子宮筋腫の切除が流産を改善するというエビデンスは得られなかった.
○過多月経などの症状を有する粘膜下筋腫など子宮内腔の占拠病変は切除するのが一般的である.
○子宮内腔の変形を来すような子宮筋腫は切除すべきと考えられる症例も多いが,子宮筋腫の大きさ,位置,個数,患者の年齢,不妊治療の有無など,配慮すべき事項が多岐にわたる.
○現在症状があり婦人科的手術適応があれば手術を考慮するが,現在症状はなく婦人科的手術適応に乏しい場合は,将来の妊娠出産の際に,筋腫が合併症のリスクとなる可能性を説明しつつも,それを誇張して安易に早期の手術を推奨することも控えるべきであり,個別の対応が必要である.