6.子宮頸管拡張

○子宮頸管は主にコラーゲンでできている.Ⅲ型コラーゲンは急速に拡張すると損傷し,一度損傷を受けると次回妊娠時にも回復しない.
○段階的に時間をかけることが望ましい.

施行前のインフォームドコンセント(IC)

○流産手術は容易な処置と患者は考えていることも多い.偶発症・合併症を医療過誤ととられることがないよう十分なIC を行う.
○非直視下の手技であり,子宮の頸部は硬く,妊娠子宮の体部は軟らかく,そのどちらも傷つきやすいことを認識をしてもらう.
○子宮体部損傷:穿孔を起こす可能性,近傍臓器損傷の可能性もある.
○子宮頸管損傷:出血はガーゼによる圧迫で止血できる場合もあるが,縫合が必要となる場合もある.

(1)早期流産

1 )子宮頸管拡張の方法
緩徐拡張法につづいて急速拡張法を行う
①緩徐拡張法
○排尿し膀胱を空にさせる.
○内診と経腟超音波検査は子宮の大きさ・位置・硬さ,子宮頸部のくびれ,子宮体部の内腔の傾き・形・長さ,子宮筋腫・子宮奇形の有無を三次元的に把握することに役立つ.
○内子宮口まで拡張が必要であるため,超音波検査で子宮頸管長を測定し,頸管拡張剤の長さを選択しても良い.
○外子宮口に子宮腟部鉗子をかけるが,深すぎると出血を伴うので注意を要する.
○子宮腟部鉗子を牽引することで頸管の屈曲を少なくできる.
○子宮ゾンデで方向を確認した後,ラミナリア等の吸湿性子宮頸管拡張材を挿入する.
○子宮ゾンデは利き手拇指と示指,または拇指と示指・中指で軽く持つ(図16).
○頸管拡張剤挿入にはラミナリア鉗子がある場合はそれを用いるが,無ければ長摂子で挿入する.
○吸湿性頸管拡張材は海藻の茎根部を原料としたラミナリアが最も広く用いられている.その他親水性ポリマーのダイラパンS®,ダイラソフト®,硫酸マグネシウム(頸管熟化作用を有する)を含む高分子材料のラミセル® がある.

○12 週までの処置であれば,ラミナリアは細を2~3 本,ダイラパン®・ダイラソフト® は3 ㎜ 1 本,ラミセル® は3 ㎜ 1 本が基本となる.
ラミナリアの使用法・注意点
・1 本挿入した場合,抜去時等に本体が破損する場合があるので複数本挿入する.
・未産婦であれば,前日夕方に挿入し翌朝に以降の処置を行うことが望ましい.
vダイラパンS®・ダイラソフト® の使用法・注意点
・4~6 時間で3 ㎜のものが8 . 3~10 ㎜,4 ㎜のものは10~12 . 5㎜まで膨張する.
・ダイラソフト® は,指で折り曲げることができるが長摂子では接合部のみ把持し,ポリマーの部分は把持しない.
・24 時間以内に必ず抜去する必要がある(表13).

②急速拡張法
○拡張器として吾妻式頸管拡張器,日母型子宮頸管拡張器ヘガール型(短)・シュレーデル型(長)がある.
○拡張器の持ち方は,拇指と支持指・中指の3 本で軽くつかむ.
○吸湿性頸管拡張材を併用した場合はそれを抜去後,子宮ゾンデを用いて子宮の方向を確認し,子宮底部までの距離を確認する.
○その方向に拡張器を力を入れず挿入する.挿入は7㎝の目盛りまでで,それ以上は挿入しない.
○拡張器の先端から7㎝の部分と,先端から3㎝の部分(内子宮口の位置)の直径を表とする(表14).胎盤鉗子の挿入に際しては表15 と表14 を参照し十分な拡張を行う。


(2)後期流産

○妊娠週数および児頭の大きさにより緩徐拡張を2 回から3 回と回数を変え十分な拡張をした後にゲメプロスト(プレグランディン®)腟錠を投与する.
1 )子宮頸管拡張の方法
○未産婦で子宮口がピンホール状の場合,ラミセル® 3 ㎜ 1 本または5㎜ 1 本を入れ,その4 時間後からラミナリアの細3~5 本または,太・太長2~3 本または,ダイラパンS®・ダイラソフト® 3 ㎜または4㎜のものを1~2 本挿入すると痛みの軽減に役立つ.
○その後,児頭を娩出するのに可能な程度子宮頸管を拡張するが,ラミナリア桿®太・太長を妊娠週数程度の本数が入るまで拡張,またはダイラパンS®・ダイラソフト® 4㎜ 5 本を目安の挿入する.

(3)頸管拡張困難症例の対応

1 )子宮の極度の前屈・後屈
○子宮腟部鉗子で子宮を強く牽引する.
○後屈で帝王切開の既往がある場合は特に注意を要する.
○経腹超音波で鮮明な画像を得るために膀胱に尿を充満させることもあるが,そのせいで子宮内腔の方向が変わることもあるので注意する.
2 )子宮筋腫合併
○内腔を圧迫する場合処置も困難となる場合がある.
3 )子宮形態異常合併
○重複子宮の場合,妊娠側の確認を行う.
○中隔子宮の場合,中隔を胎盤鉗子でつかむと強い抵抗があるため,再度つかみ直し処置する.
4 )外子宮口がピンホール
○稽留流産であるなら自然排出を待つ.
○子宮ゾンデが入る場合,その方向に先のほうだけでも入るだけラミセル® を挿入,頸管熟化を少しずつ起こしながら,2 次,3 次的に内子宮口までラミセル® で拡張する.
5 )前置絨毛・前置胎盤
○胎盤の形成される妊娠16 週頃には前置胎盤は5%にみられ,妊娠12 週頃の前置絨毛はその数倍の確率で存在する.
○出血量は多くなるが,通常の処置と出血量に有意差がないという報告が多い.
○出血が多量となった報告もあり,処置前に輸血や開腹手術,子宮摘出の可能性につきIC を得る.
○大量出血に対してルート確保をする.頸管拡張剤を内子宮口より深くまで挿入しない.もし緩徐拡張時に出血が多くなった場合,急速拡張ができるか判断をし,可能なら超音波下に急速拡張,続いて掻爬を行う.