6.臨床での実践

・臨床的に行う時の概要を表49 に示す

・ まずは,患者が ACP を受け入れられる,望んでいるかどうかを見極める必要があるため,問診票での問題提起や,待合い・化学療法室にACP のポスターを貼って ACP の導入を促すための工夫が各施設でされている.
・ しかし,問診票が未記入であったり,家族が記載を修正(本人は参加したいが家族は反対)するなどと答えが得られないこともあるし,「自分にはまだ早い」,「今は治療に集中したいので,次の機会に」,「そのような話はしたくない」と断られる場合もある.このような場合には,患者のなかで必要性をまだ感じていない,機が熟していないものと思われ,無理にACP を開始することは避けた方がよい.
・ 問診票が未記入であった場合,より分かりやすい説明で ACP が開始となることがある.
・ 健康状態が悪化してきている場合や何らかの身体症状を有している場合,現在行っている治療などが効果を示さなかった場合に提案すると受け入れてもらえることが多い.
・ 受け入れられるまでの間はその患者がどのような人であるかを知る,謂わばACPの準備期間と捉えてその人を理解することに焦点を当てるのがよいかもしれない.どのような背景・考え方を持ち,ストレスに対しての対処方法(コーピングスタイル)をとるかなどをみていく.
・ 次に情報提供を行う.情報提供については診療情報提供などに関する指針に詳しく記載されているが,話し合いのなかで毎回指針を遵守するのはかなり難しい上,内容が重複することで時間を浪費してしまう.主に,①今後の見通し(予測されることを含む),②現在がどの段階・状況にあるのか(今がどのような状態にあるかを患者・家族に問うてみることでどのくらい病状を理解しているかを評価することができる),③治療・ケアの選択肢とその概要(利益と不利益を含めた)について医療者が情報提供することが理想的とされている.
・ 情報提供の後に話し合う議題は,患者にとって大事にしたいことや目標(例えばトイレを自力で頑張りたい,孫と過ごす時間,苦痛が少ないことなど),推定意思の決定者を決める,人生の最終段階における治療・ケアについて,どこで過ごすのがよいか,何をしてもらいたいのか,何がしてもらいたくないのかなどである.医療・ケアについては,心肺蘇生法の実施,呼吸・循環の管理,苦痛を取り除く治療・ケア(鎮静を含む),栄養管理(経管栄養や点滴など),透析,抗菌薬の投与,輸血などが挙げられ,何を開始して,どうなったら中止するのか,治療する目的と利益・不利益などを話し合っていく.例えば呼吸管理として,経鼻カニューレからの酸素投与までは行い,ネーザルハイフロー療法など機械的なアシストは行わない,栄養管理として点滴は行うが胃管留置はしない(点滴も浮腫や胸水が悪化したら中止する)というように話し合って決めていく.
・ どこで過ごすかも重要な問題である.過ごす場所が QOL や予後に影響を与えることを指摘する報告が散見されている.最期までを自宅で過ごすのか,どのような状況になったら入院対応とするのかなどを話し合う.
・ その他,想定されないことが起きた場合,どこまで推定意思の決定者に委ねるのかなども議論するべきところである.
・ 注意しなければならないことは特に医療面は上記のようにたくさんの議題はあるが,内容が難しく,患者・家族の理解をこえてしまうことである.また細かすぎると医療提供側も窮屈になってしまい,日々の申し送る事項も増えてしまう.患者・家族の理解と施設で提供できる限界を考慮しておく方がよい.加えて,1 回で話し合えること,決められることには限りがあり,継続して行っていくことが求められる.話し合いの内容や決まったことは文書化し,内容の見直しや定期的なアップデートを行っていく.
・ 話し合い全体のなかで,患者や家族の精神的負担へ配慮することはかなり重要である.必要時に会話を止める,精神科医の助言や介入を必要とする場合もある.