7.日本産婦人科医会における医療安全の取り組み
日本産婦人科医会(医会)では産婦人科医療の安全性を向上させることが重要と考えており,医療安全部会が中心となって取り組んでいる.具体的には様々な報告事業を行うことで,実際の事故事例を収集し,どのような事例が起きているかを把握して,その問題点について考察し,その情報を会員に向けて発信することで,同種事例の発生を繰り返さないように取り組んでいる.
このような目的のために医会として最初に取り組んだのが偶発事例報告事業であり,2004年以降,継続して取り組んでいる.この事業が始まったのは,当時,リピーター医師が社会問題となっていたことから,それに対する専門家組織としての自助的な活動の一環として制度設計がなされた.本事業は,①全国で発生した医療紛争になり得る事例の実態を把握すること,②事例について第3者的視点で評価を行うこと,③同種事例の再発防止対策を検討して周知することであり,より安全な産婦人科診療を実現することを目的としている.
本事業から 2010年に妊産婦死亡報告事業が独立して運営されるようになり,また,2021年からは妊産婦重篤合併症報告事業が開始されているが,これら3事業を統合的に把握することで,わが国の産婦人科医療における課題の抽出を行って,それを医 療安全の向上,より安全な産婦人科医療の実現につなげることを目指している.以下, 医会における上記3事業のうち,偶発事例報告事業について紹介する.
1.偶発事例報告事業の具体的な活動
偶発事例報告事業の報告の手順を図30 に示す.会員施設は都道府県産婦人科医会に偶発事例の発生状況を毎年1月末日締切で,定期的に報告することになっている(定期報告).定期報告では0報告を含めて報告が必要である.加えて,対象となる偶発 事例があった場合には,全例その内容について「事例報告書」を提出する(随時報告).偶発事例報告事業に関する報告様式は,医会ホームページ(産婦人科医会のこと>部 会別資料>医療安全部会>各種様式)からダウンロードできる.
会員施設から報告を受けた都道府県産婦人科医会では,会員施設からの報告事例を 年間集計表にとりまとめ,その集計表を2月末日までに日本産婦人科医会に提出する.また,会員施設から提出された「事例報告書」についても,施設・個人に関する情報 を匿名化した上で,これらも全例2月末日までに日本産婦人科医会に提出する.加え て,都道府県産婦人科医会で実施した医療安全に関する会員研修会の実施状況や医療 事故に対する集団・個人研修の実施状況についても報告書を提出する.偶発事例報告 事業で提出する報告書については表21にまとめる.
日本産婦人科医会では,都道府県産婦人科医会からの報告を集計して分析し,公表用資料を作成,毎年,全国医療安全担当者連絡会で公表している.また,医会の記者懇談会においても公表している.さらに,医療安全上重要で会員に周知すべき視点を各症例から抽出し,「偶発事例から学ぶ」を医会報に掲載することで,その周知に活用している.この事業への事例報告数は,毎年,確実に増加し,現在では毎年 400例を超え,多くの事例を報告いただいている.
2.偶発事例報告事業の対象
偶発事例報告事業では表22に示す事例の報告をお願いしている.妊産婦死亡事例, 妊産婦重篤合併症事例(劇症型 A群溶連菌感染症,大動脈解離,脳出血,肺血栓塞栓症, 周産期心筋症,心肺虚脱型羊水塞栓症)については,別の事業として取り扱っている.