8.がん患者の栄養管理
・ がん患者は治療による副作用や病状の進行により,食欲不振,栄養不良,体重減少などが起こりやすい.このような状態は,患者の QOL を低下させるだけでなく,合併症の増加,治療の中断などを招く大きなリスクとなる.そのため,がん患者に対して適切な栄養管理を行うことは重要な課題である.
(1)栄養スクリーニングとアセスメント
・ 適切な栄養管理を行う上で重要なことは,栄養スクリーニングとアセスメントである.
・ 栄養アセスメントツールには簡易栄養状態評価表(MNA:mini nutritional assessment)の他,がん患者の栄養評価を意識した点数化主観的包括的評価(PG-SGA)もある.
・ PG-SGA は消化器症状の項目が多く,詳細な症状を把握できる.また,画像などによる消化管狭窄や閉塞の評価も栄養投方法を決定する上で重要である.
(2)リフィーディング症候群
・ リフィーディング症侯群(Refeeding syndrome)とは,慢性的な飢餓状態にある低栄養患者が,栄養を急に摂取することで水,電解質分布の異常を引き起こす病態の総称である.
・ がん患者は慢性的な低栄養に陥りやすい.低栄養状態の患者に栄養投与を行うと,インスリン分泌を刺激し,細胞内でATP 産生と蛋白質合成が始まり,血液中のPが大量に細胞内に取り込まれ,低P血症を引き起こす.低P 血症では,グリセリン2, 3 -リン酸(2, 3 – DPG)が不足し酸素運搬能力が落ちて組織が酸素不足に陥り,心不全や呼吸不全,肝機能障害や不整脈など様々な症状が引き起こされる.また,インスリンの作用でK やMg も血液中から細胞内に移動するため,低K 血症や低Mg 血症になる.他にも糖代謝によりビタミンB1 が消費され,心不全やウェルニッケ脳症,乳酸アシドーシスなどが出現する.時に致死的になるため,注意すべき病態である.高リスク判断基準は下記のとおりである(表15).
【モニタリング項目】
*体重
*血液検査:血糖値(低血糖も高血糖もあり得る)Na,K,P,Mg,Ca,BUN,Cr 血液ガス(乳酸アシドーシスの確認)
*心不全の有無:心電図モニター(QT,不整脈)・脈拍数・呼吸困難・浮腫の有無
・ 栄養投与開始時のエネルギーは現体重× 5~10kcal/㎏ /day から開始し,上記に示すモニタリング項目を頻回に確認する.ビタミンB1 も投与する.栄養投与開始時に既に低P,K,Mg 血症を認めている場合は,それらの補充をしながら栄養投与開始が推奨される.脱水を伴っていることも多く,脱水の改善に伴い低P,K,Mg 血症が顕在化してくることに注意する.
・ 医療者が,栄養投与前にアセスメントとモニタリングを行い,リフィーディング症候群を引き起こさないよう十分注意をすることが重要である.
(3)栄養介入の実際
1 )食事摂取不良の主な原因と対応例
・原因は多岐にわたる.原因に合わせた対応が重要である.
嗜好に合わない食事内容…患者の希望に沿った食事の提供,家族の差し入れの検討
食欲に見合わない食事量の提供…食事量を半量にする
不適切な食形態…きざむ,ペースト状にするなど
嘔気・嘔吐・下痢・便秘…服薬による調整,適度な運動,マッサージなど
味覚障害…症状に合わせた味付けの調整
口内炎などの口腔粘膜障害…刺激となる食品や料理を避ける,食形態の工夫
疼痛…疼痛コントロール
体位保持困難…食形態の工夫や環境調整
握力低下や上肢の運動障害や可動域の低下…食器やカトラリーの調整と食形態の工夫
・ 食欲に見合わない食事量の提供や栄養剤の追加は,更なる食欲低下を招く.食欲がない場合は,果物だけなど少量から開始し,“完食できた”という自信を与えることも重要である.
・ 疼痛や骨転移による体位保持困難や上肢の運動障害が見られる場合には,管理栄養士と連携して楽な姿勢で食べられる食事に調整し,使いやすいカトラリーを用意する.
2 )悪液質の栄養管理(表16,17)