ポイント
RPOC では,緊急時の対応に迫られることが少なくないので,自院で管理する際には高次医療施設にすぐに搬送できる体制を平時より構築しておく.
(1)RPOC の概念
RPOC は,以前から英語圏では使用されていたが,日本で使用されるようになったのは比較的最近であり,その和訳はまだない.『産科婦人科用語集・用語解説集』においてもRPOC はまだ掲載されていない.
2020 年に発刊された研修ノートNo.103「産科異常出血への対応」内で,後期分娩後異常出血についての記載中にRPOC が初出しているが,RPOC とは,胎盤遺残(retained placenta,placental retention) および胎盤ポリープ(placental polyp) のことであると定義され,子宮動脈仮性動脈瘤(UAP:uterine artery pseudoaneurysm)とは区別されている.
産科婦人科用語集・用語解説集改訂第4版によれば「胎盤遺残」とは,分娩第3期に胎盤が完全に娩出されずに,一部または大部分が子宮腔内に残留するものと定義されている.一方,「胎盤ポリープ」は,残留胎盤から発生した子宮腔内のポリープで,凝血などが加わって次第に増大したものと記載されている.
従来のB モード経腟超音波断層法による子宮内腫瘤像の同定に加えて,経腟カラードプラ法の普及に伴い,分娩後の子宮内腔の血流異常像の同定が増えたことで疾患としては必ずしも胎盤遺残とは確定できないが,胎盤遺残やUAP が強く疑われる状態が多く見つかるようになったため,RPOC という用語の使用が増えてきたと推察できる.この意味でRPOC は,「胎盤娩出後に発生する子宮内異常像」を総称した臨床的診断名(あるいは疑診名)ともいえる.
(2)RPOC の診断
帝王切開術では,胎盤を用手的に娩出することが多いため,癒着胎盤があれば胎盤が剝がれないので,部分的に胎盤が遺残する.このようなケースでは,多くの場合,術後に超音波断層法を実施すると,子宮内に遺残した胎盤を描出できる(図52A).また,同部位にカラードプラを表示するとフローを観察できる(図52B).
しかし,帝王切開術で胎盤が完全に娩出できたと思われる症例においても,退院診察時の経腟超音波断層法で胎盤遺残を思わせる子宮内異常像が見つかる場合もあるし,solid mass を伴わずにカラードプラによって異常な血流像のみを子宮内腔に認める場合もある.このような場合,筆者らは,子宮内腔に胎盤遺残があるか,あるいはUAP を形成した可能性を強く考え,RPOC として管理を開始する.
分娩後24 時間から12 週間の間に発生する異常出血を「後期分娩後異常出血」という.この原因,診断,診断・治療のためのアルゴリズムについては,研修ノートNo.103「産科異常出血への対応」に詳細に記載されている.そして,RPOC にUAP を含めるとすれば,後期分娩後異常出血の多くはRPOC が原因と推察される.分娩後に経腟超音波断層法で子宮内腔が異常に厚いか,あるいはカラードプラ法で子宮内に血流を伴う異常像が観察されれば,胎盤遺残の有無を問わずRPOC と診断してよいと思われる.
(3)RPOC の治療
RPOC と診断した場合,それが遺残胎盤なのか,UAP なのか.さらに,治療を要するRPOC なのか,あるいは経過観察できるのかが問題になる.
胎盤遺残かUAP かの鑑別であるが,UAP の鑑別にはダイナミックCT 検査が優れている.未破裂のUAP は血管外漏出(EV:extravasation)を伴わない子宮内の濃染した球状影として観察され,EV であれば通常球状影を伴わない動脈相での血管漏出像が観察される.造影MRI 検査が可能であれば遺残した胎盤は濃染するため,遺残胎盤の鑑別が可能であるほか,筋層への浸潤の程度が判別できる場合もある.しかし,実臨床では,高次施設でないとダイナミックCT 検査や造影MRI 検査をすぐに実施することは困難であり,超音波検査の所見から単にRPOC と診断することが多い.
RPOC と診断した場合,基本的には頸管拡張や子宮内容除去術(D&C)は行わず,経過観察で胎盤やUAP が消失するのを待てばよい.しかし,緊急でIVR による子宮動脈塞栓術を行った方がよいと判断される場合がある.
筆者らは,IVR 後にD&C や子宮鏡下の遺残胎盤切除術は行っていないが,近年,IVR +子宮鏡下切除術を選択する施設も増加している.
どのような場合に緊急でIVR による子宮動脈塞栓術を行うべきかであるが,第一に考慮すべきことは出血の持続,第二に貧血の程度,第三に緊急性である. 出血のため来院したが,診察した時点で持続性の出血がなければ,保存的に観察できることが多い.しかし,採血の結果,かなり貧血が進行していれば現時点で止血していても再出血時にショック状態に陥る可能性もあり,治療の対象とするべきかもしれない.来院時に出血が持続していれば,インフォームドコンセントを行いできるだけ早いタイミングでIVR による子宮動脈塞栓術を行うのがよいと思われる.血圧が低下し産科危機的出血の状態であれば,直ちにIVR あるいは子宮全摘術を考慮すべきであろう.少し余裕があれば,輸血を準備しつつ,最初にダイナミックCT 検査を行っておくと出血部位を同定できると同時にEV の有無を判断できる(図53).
図はダイナミックCT 検査による静脈相(図53A)と動脈相(図53B)である.動脈相では静脈相で見られなかった子宮筋層からのEV が観察される.EV が見られれば,通常,IVR による子宮動脈塞栓術,あるいは子宮全摘術の適応である.
RPOC では,緊急時の対応に迫られることが少なくないので,自院で管理する際には高次医療施設にすぐに搬送できる体制を平時より構築しておくことが望ましい.