Q7.子宮腺筋症合併妊娠の注意点は?
ポイント
- 緊急帝王切開術施行に備えた周到な準備を行っておく.
- 子宮筋層のどこをどのように切開したらよいかを検討する.
- 胎盤の剝離状況に注意する.
- 多量出血に対する準備を行う.
(1)子宮腺筋症合併妊娠における留意すべき周産期合併症の頻度
- 早産(24.4%)
- FGR(11.8%)
- HDP(9.9%)
- 子宮感染(7.3%)
- 前期破水(4.6%)
- 前置胎盤(2.7%)
早産に関しては前期破水や自然早産も増加するが,上記のような産科合併症による早期娩出目的の人工早産も増加するため,およそ1/4 の症例で早産に至ると報告されている.また,子宮腺筋症合併妊娠では妊娠高血圧症候群(HDP)や胎児発育不全(FGR)の合併を伴うことが多く,その原因として子宮腺筋症が胎盤の形成過程に何らかの異常をもたらす可能性が示唆されている.
(2)子宮腺筋症合併妊娠における画像評価のポイント
- 子宮腺筋症病巣の占拠部位と正常子宮筋層の分布
- 両側卵巣を含めた子宮後壁側の評価(癒着の評価)
- 胎盤と腺筋症病巣の関係
- 腺筋症病巣核出術後妊娠例では子宮筋層菲薄化の有無
早産に加え緊急帝王切開術のリスクも高いため,MRI による評価を行うことが望ましい.伸展性の乏しい腺筋症病巣を代償するように正常子宮筋層が伸展していることも多い.子宮腺筋症は附属器を含め強固な癒着を伴っていることもあり,術中の子宮挙上を妨げる可能性も高い.腺筋症核出術後の残存病巣を含め病巣に胎盤が付着している場合には,癒着胎盤のリスクも考慮する必要がある.
(3)子宮腺筋症合併妊娠における帝王切開術のポイント(児娩出まで)
- 開腹後,両側子宮円索や卵管の位置を確認し,子宮筋層の伸展性を確認する.
- 術中エコーも併用しつつ子宮腺筋症病巣を避けて筋層切開を行う.子宮腺筋症病巣は厚く固いため病巣を避けた子宮体部縦切開や子宮底部横切開を考慮する.
- やむを得ず子宮腺筋症病巣を切開する場合,筋層の伸展性が不良と判断された場合,縦方向や斜め方向に切開を追加して児の娩出を図る.
通常の子宮下部に病巣がなければ問題ないが,過伸展に伴い頸管を切開しないように留意する.
切開の追加は出血量の増加につながるため,術前に貧血治療や輸血の準備も重要である.
(4)子宮腺筋症合併妊娠における帝王切開術のポイント(児娩出後)
- 胎盤の剝離徴候を慎重に判断する.
- 胎盤剝離後を含め弛緩出血に留意する.
- 術後は子宮収縮促進と感染予防に努める.
児娩出後に胎盤が自然剝離すれば問題ないが,癒着胎盤の場合には無理に剝離を行わず胎盤残置も考慮する.子宮腺筋症病巣により子宮収縮は不良となることも多く,弛緩出血予防のためオキシトシンの予防投与や出血のコントロールがついた後も感染や子宮復古不全には注意を要する.
症例提示
35 歳 4妊1産
- 第1子経腟分娩後2回流産を繰り返し,子宮腺筋症病巣核出術を受けたのち体外受精胚移植にて妊娠成立した.妊娠30 週頃より妊娠高血圧症候群の診断で内服加療が開始されるとともに,切迫早産にて入院加療となった.
- 妊娠33 週の時点でのMRI では,体部前壁に子宮腺筋症病巣の残存を認めその直下に胎盤が付着していたが,子宮下部には病巣は認めなかった(図35).
- 妊娠37 週0日に選択的帝王切開術を施行した.通常の子宮下部横切開にて健児を娩出,胎盤も自然に剝離した.輸血は行わなかった.