(2)女性患者の検査・診断
ポイント
- 排卵因子,卵管因子,子宮・頸管因子,その他の検査を,月経周期を考慮に入れて計画する(表4,図8).
1)排卵因子
①基礎体温
4時間以上の睡眠ののち,覚醒時に口腔内(舌下)の体温を測定する.卵胞期は低温相,黄体期には高温相を呈する.高温相は低温相より0.3度以上上昇することが多い.
②低温期ホルモン検査
月経3~5日目に以下のホルモン値の計測を行う:LH(luteinizing hormone),FSH(follicle stimulating hormone),プロラクチン,エストラジオール,テストステロン.ゴナドトロピン(LH/FSH)の基礎値により排卵障害の部位を推定することができる.
多囊胞性卵巣症候群が疑われる時には,診断基準(表5,図9)の注6に示すように,月経もしくは消退出血の10日目以降で10mm以上の卵胞が存在しない時期に行う.
③黄体ホルモン検査
黄体期中期に血中プロゲステロン値を測定する.近年ではその意義は否定的である.
④超音波検査
排卵直前の主席卵胞の卵胞径は20mmとなり,排卵後は縮小する.卵胞径が14mmに達したのちは1日2mm程度大きくなるので,これを目安に排卵時期を予測することができる.子宮内膜は排卵期には10mmまで厚くなり,木の葉状を呈し,排卵後には高輝度となる.
2)卵管因子
①子宮卵管造影
月経終了後から排卵までに行う.卵管炎の存在が疑われる場合は治療後に施行する.
検査による痛みを心配するあまり施行を躊躇する患者もいるが,検査後の妊娠率上昇がみられ治療的効果もあること,また両側卵管閉塞があった場合タイミング療法・人工授精が無駄になってしまうことを説明し,検査の重要性の理解を得る.
子宮内に留置したカテーテルより,X線透視下に造影剤を注入する.両側卵管采まで造影されたところ,さらに卵管采から腹腔内に造影剤が流出しているところで撮影を行う.
油性造影剤であれば翌日,水性造影剤であれば約15分後に造影後の拡散像の撮影を行い,卵管内の造影剤の遺残の有無,骨盤内の癒着の評価を行う.
主な読影所見を図10に示す.腹腔鏡検査との比較では,感度0.65,特異度0.83とされており,診断には限界があることにも留意する.
ヨード造影剤に対するアレルギーのある症例では,卵管通水検査,卵管通気検査,超音波下子宮卵管造影,子宮鏡下選択的卵管通水検査を検討する.前二者は簡便に行え保険適用もあるが,片側卵管閉塞・子宮内腔の形状・卵管の閉塞部位の診断はできない.後二者には保険適用がないことに注意が必要である.
②クラミジア抗体
子宮頸管から抗原が検出されなくても卵管などに存在する可能性を考え,不妊症検査では抗体検査を優先して行う.採血でクラミジアIgA,IgGの測定を行う.いずれかでも陽性の場合,過去に治療歴がなければ治療を行う.同時に,子宮頸管擦過検体でクラミジア抗原検査(核酸増幅検査)を行う.抗原が陽性の場合,パートナーの検査・治療も行う.
3)子宮・頸管因子
①超音波検査
子宮内腔に突出する病変がないか観察する.高温期は子宮内膜が高輝度になり観察しにくいので,低温期である程度子宮内膜が厚い時期が観察しやすい.病変が疑われる場合,子宮鏡で確認する.子宮腔内に生理食塩水を注入して経腟超音波で観察するsonohysterographyも有用である.
その他,帝王切開瘢痕症候群,子宮奇形の有無なども観察し,必要に応じてMRIを検討する.
②頸管粘液検査
排卵直前の時期に,頸管より1mLシリンジなどで頸管粘液を吸引採取し,量をみる.スライドグラス上に出しシリンジの先で伸ばし,牽糸性,透明度をみる.排卵期であれば量は0.1mL以上,牽糸性は10㎝以上,透明となる.
③フーナーテスト/性交後試験(postcoital test)
排卵直前の頸管粘液が増えている時期に行う.検査前夜に性交を行うよう指示し,性交3~24時間後に頸管粘液を採取する.スライドグラスに採取した粘液をのせ,カバーガラスで覆い,400倍で観察する.1視野中の精子の数,運動の有無を観察する.『WHOラボマニュアル第5版(2010年)』では性交後9~14時間後に頸管粘液の採取を行い直進精子が1個でもあれば異常なしとしていたが,検査時間・正常所見については施設ごとに異なるのが現状である.また,『WHOラボマニュアル第6版(2021年)』では臨床検査としてもはや施行されなくなったとして記載が廃止されている.
4)その他
①抗ミュラー管ホルモン(AMH:anti-Müllerian hormone)
卵巣予備能の検査として行われる.卵巣に残っている卵子の数の目安として有用であるが,卵の質は反映しないことに注意する.ART(生殖補助医療)の調節卵巣刺激法における治療方針の決定を目的とした場合,6カ月に1回に限り保険適用となる(7~9頁参照).PCOSの診断基準(表5)にも採用されているが,保険適用はない.
②甲状腺ホルモン
甲状腺機能低下症は月経異常とも関連するため不妊症精査時にしばしば発見される.顕性の甲状腺機能低下症(TSH高値かつfT4低値)については,質の高いエビデンスは不足しているが,胎児の神経発達への影響などに鑑み,妊娠に先立ちレボチロキシンNa(LT4)補充により甲状腺機能を正常化させておくことが推奨されている.一方,潜在性甲状腺機能低下症(TSH高値のみ)に対しては,甲状腺自己抗体の有無,fT4値,不妊治療の方法などを総合的に判断し,必要に応じLT4補充を行う(10~12頁参照).