平成15年2月17日放送
10代の人工妊娠中絶についてのアンケート結果から
日本産婦人科医会医療対策委員会委員 幡 研一
【はじめに】
近年 我が国における人工妊娠中絶件数は年々減少しております。一方、若年者.特に20歳未満の人工妊娠中絶件数は年々増加の一途をたどっております。
件 数 20歳未満の件数 % 昭和30年 1,170,143
14,475
1.2
昭和40年 843,248
13,303
1.6
昭和50年 671,597
12,123
1.8
昭和60年 550,127
28,038
5.1
平成07年 343,024
26,117
7.6
平成13年 341,588
46,511
13.6
昭和50年までは全中絶件数の1%台だった10代の中絶が昭和60年には5.1%,平成7年には7.6%,直近の平成13年には13.6%と増加し、平成7年以降は10代の占める割合だけではなく、その件数も増加しております。
そのような現状を憂慮し、医療対策委員会では、10代で人工妊娠中絶手術を受けた女性にアンケート調査を実施し、妊娠中絶を選択した理由や、こうすれば中絶をしないで済んだというような意見を聞き、どうすれば若年者の人工妊娠中絶を減少できるかを検討したいと考えました。また避妊の知識調査も併せて行い、望まない妊娠の予防についても検討致しました。【実施方法】
対象:10代で人工妊娠中絶を受けた女性626名(平成13年における10代中絶女性の1.34%に相当)
実施機関:日本産婦人科医会医療対策委員会、委員、役員およびその紹介医療機関 91施設
実施時期:平成14年4月〜9月【結果】
1.患者背景
回 答 回答数 % 14歳 11
1.8
15歳 18
2.9
16歳 78
12.1
17歳 130
20.8
18歳 158
25.2
19歳 232
37.1
無回答 1
0.2
計 626
100
年齢は14歳から19歳まで年齢の上昇と共に増加しますが、特に16歳以上では増加が著明でした。 また、全体の96.8%は未婚であり、出産経験ありは12名1.9%でありました。一方、中絶経験ありは118名18.8%を占めました。職業の有無では471名75.2%が無職で、152名24.3%が職業を有し、職業を持たない女性の77%は学生でした。
2.妊娠相手男性の背景
15歳以下〜30歳以上まで幅広く存在しますが、患者年齢と同様に16歳以上の増加が著名であり、特に17歳〜19歳が最多で、この年代で全体の45%を占めました。
53.4%の人が有職、43%が無職で,無職の人の80.4%は学生でした。3.避妊の状況
避妊はしていますか
時々避妊している場合の避妊方法(複数回答)
回 答 回答数 % 1.殆どしていない
194
31.0
2.時々避妊している
347
55.4
3.常に避妊している
66
10.5
無回答
19
3.5
計
626
100.0
回 答 回答数 % a.コンドーム
330
93.5
b.ピル
3
0.8
c.子宮内避妊器具
2
0.6
その他
16
4.5
避妊については、時々避妊しているが55.4%、殆んどしていないが31.0%で、常に避妊している人は10.5%でした。
避妊の方法ではコンドームが93.5%と最多でありました。* * * 今回妊娠したとき避妊はしていましたか
避妊した(複数回答)
避妊しなかった(複数回答)
回 答 回答数 % 1.ピルを飲んでいた
0.0
2.コンドームを使った
119
19.0
3.避妊ゼリーを使った
3
0.5
4.膣外射精した
153
24.4
5.女性用コンドームを使った
0.0
回 答 回答数 % 1.妊娠しても良いと思った
51
8.1
2.安全日だと思った
133
21.2
3.相手がコンドームをつかなかった
188
30.0
4.どうしたら良いか知らなかった
27
4.3
今回の妊娠時、避妊したと答えた人のうち膣外射精が24.4%、コンドームが19.0%であり,一方避妊しなかった人の理由では、相手がコンドームをつけなかったが30.0%、安全日だと思ったが21.2%でありました。
* * * 避妊法について教わったことがありますか
回 答 回答数 % 1.学校で教わった
489
78.1
2.雑誌やテレビで
282
45.0
3.友達に聞いた
233
37.2
4.親から聞いた
84
13.4
5.病院で聞いた
44
7.0
6.全く知らない
9
1.4
避妊法について避妊知識の入手方法は、学校が78.1%、雑誌・TVが45.0%、友達が37.2%でありました。
* * * 避妊の方法について詳しく知りたいですか
回 答 回答数 % 1.知りたい
355
56.7
2.特に知りたくない
173
27.6
3.どうでもよい
45
7.2
無回答
53
8.5
計
626
100.0
避妊の方法について詳しく知りたいですかの設問に対しては、56.7%の人が知りたいと答えております。
4.妊娠が判明したときの状況
妊娠がわかったときどう思いましたか(複数回答)
年齢
14〜15歳 16〜18歳 19歳 計 人数
29名 364名 29名 29名 嬉しかった
7
117
80
204
困った
20
248
158
426
何も感じなかった
2
9
4
15
妊娠がわかったときどう思いましたかとの問いに対しては、嬉しかったが32.6%、困ったが68.1%であり、嬉しかった人の割合は年齢が上昇するにつれて増加し、19歳女性では34.5%が嬉しかったと答えております。
* * * 産みたいと思いましたか(複数回答)
年齢
14〜15歳 16〜18歳 19歳 計 人数
29名 364名 232名 626名 産みたかった
10
139
97
246
産みたくないと思った
8
71
34
113
迷った
11
150
101
262
産みたいと思いましたかとの設問には、産みたかったが39.3%,産みたくないと思ったが18.1%であり,産みたかったと答えた人の割合は年齢の上昇と共に増加し,19歳女性では41.8%が産みたかったと答えました。逆に、産みたくないと答えた人の割合は年齢の上昇と共に減少し19歳女性では14.7%に過ぎませんでした。
また、各年齢層において産みたかった人の割合は嬉しかった人の割合より多く、産みたくないと思った人は困ったと感じた人より少数でした。このことは、妊娠の判明したときの感情とは別に、女性として子供を産み育てたいという母性の現われとも思われました。* * * 夫(またはパートナー)以外に誰かに相談しましたか
相談相手(複数回答)
回 答 回答数 % 1.相談していない
53
8.5
2.相談した
571
91.2
無回答
2
0.3
計
626
100.0
回 答 回答数 % 1.友達
437
69.8
2.親
278
44.4
3.兄弟
91
14.5
4.その他
34
5.4
妊娠判明後の相談相手は友達が最多で69.8%、以下親・兄弟でありました。
5.妊娠中絶を選択した理由
妊娠中絶を選択した理由
回 答 回答数 % 収入が少なくて育てられない
424
67.7
若すぎる
399
63.7
未婚のため
290
46.3
子育てに自信がない
277
44.2
学業に差支える
242
38.7
親の反対
171
27.3
収入が少なくて子供を育てられないなど、経済的な理由が67.7%と最多で、次いで若すぎる、未婚のため、子育てに自信がない、学業に差し支える、親の反対等が上位を占めました。
6.もしこうだったら中絶しないで済んだ条件
もしこうだったら中絶しないですんだ(複数回答)
回 答 回答数 % 子育てと学業の両立
195
31
パートナーと結婚できれば
192
30.5
妊娠出産の費用が今よりかからなければ
176
28
親にもっと理解があれば
133
21.1
育児に対する補助がもっと充実していれば
127
20.2
教育費がもっとかからなければ
102
16.2
パートナーにもっと理解があれば
69
11.0
もしこうだったら中絶しないで済んだと思われることについて聞いた所、子育てと学業の両立が31.0%と最多で、次いでパートナーと結婚できれば、妊娠出産の費用、親の理解、育児への補助の充実、教育費、相手の理解等が上位を占めました。
7.手術時の週数
回 答 回答数 % 4〜7週
263
42.0
8〜11週
211
33.7
12〜15週
20
3.2
16〜19週
18
2.9
20週以上
9
1.4
無回答
105
16.9
計
626
100.0
中絶手術時の週数は11週までが75.7%と最多でしたが、12週以降の人も7.5%おりました。
【考察】
1.性教育について
今回の調査で明らかなように10代の妊娠中絶患者は16歳以降急激に増加して、おり、同様のことは相手の男性についても言えました。
このことから、性教育はこのような事態の起こる以前の年齢、少なくとも中学生になったら男子生徒・女子生徒双方に対して行われる必要があると思われます。
避妊については女性自らが積極的に避妊している人は殆どなく、今回の妊娠についても相手がコンドームをつけなかった等、男性まかせであります。
また、避妊の方法もコンドームや膣外射精等不確実な方法を選択しております。
避妊知識の入手方法は学校が最も多く、以下 雑誌・TV・友達からでありますが、詳しく知りたいと答えた人が56.7%もおり、従来の教育では不充分と考えられました。2.10代女性の出産・育児支援
少子化が社会問題となっておりますが、その原因の第一は何と言っても、未婚率の上昇と晩婚化であります。
今回の調査で産みたかったと答えた女性は16〜18歳で38.2%、19歳で41.8%おり、産みたくないと答えた女性は夫々19.5%、14.7%であり、相当数の10代女性が産みたかったが、止むを得ず人工妊娠中絶を選択している状況が明らかになりました。
中絶の理由としては経済的理由が最も多くありましたが、若すぎる・未婚のため・親の反対という理由も多く見られました。出産育児に対する経済支援、未婚であっても産みたい女性には、産めるような環境を整える体制や、シングルマザーに対しての社会全体の理解が必要であります。また、晩婚化による高齢出産のリスクを考えれば、10代での妊娠出産支援の方がより少子化対策には有効であると思われます。
政府は平成14年9月少子化対策プラスワンを発表しました。その中では従来の子育てと仕事の両立支援だけではなく、男性の働き方の見直しにも言及し、男性の育児休暇取得等を10%まで増加させたいとしております。
今回の調査結果によると、こうであれば中絶しないで済んだ理由のトップは、育児と学業の両立であります。このことより考えると大学等における育児休学制度の制定や、学生を対象とした公的保育施設の設置等、学業と子育ての両立支援も必要であると思われます。以上、「10代の人工妊娠中絶について」のアンケート調査の結果をご報告いたしました。