松江市立病院における医師の働き方改革−病院長の立場から−

入江 隆

島根県松江市立病院における医師の働き方改革
−病院長の立場から−

松江市立病院病院長
入江 隆

本稿では、病院長の立場から当院における医師の働き方改革への取り組みについて述べる。
当院の概要をスライド1に示す。

スライド1 概要

初めに、医師別と診療科別の年間および月間時間外労働時間数を分析した。当院では全医師が年間960時間以下であったため(スライド2)、A水準で可能と考えている。分娩は宅直で行っており、その回数は平日と休日を合わせて一人あたり月4〜10回となっている。産婦人科医の月間時間外労働時間数は23時間であり、全科の平均程度であった(スライド3)。なお、これまでは勤怠管理が行われておらず、勤務時間の把握は不十分であった。勤怠管理のデジタル化が求められており、当院では手動での打刻の必要がないビーコンを用いた勤怠管理システムの導入を予定している。


スライド2 年間時間外労働時間数(R3実績、医師別)
スライド3 月間時間外労働時間数(R3実績、診療科別)

一番問題となる宿日直申請について。当院では、内科医1名、外科医1名、研修医2名の合計4名で宿日直を行っている。実際は救急外来を担っており、いわゆる寝当直の内容ではないため、救急外来受診の多い時間帯の22時までを通常業務とし、22時から翌日の8時30分までを宿直、明けの12時までを通常業務勤務し、その後は前夜分の振替休暇として帰宅とした。また、休日の日直については通常業務とし、振替休暇がとれなければ時間外扱いとした(スライド4)。
時間外労働に該当するか否かを正確にルール化する必要がある(スライド5)。上長の命令のないものは原則として自己研鑽とした。

スライド4 勤務シフトの例
スライド5 時間外労働に該当するもの

医師の働き方改革を進めるにあたっては、長時間労働が当たり前で働いて来た特に管理職世代の意識改革が必須である。これまで経験してきた働き方全般に関して世代間のギャップを埋める必要がある。そのためには、研修会などを通じて職員への啓蒙を図り、同様の価値観を共有することが重要である。

医師業務の見直しとして必要なことを列挙する。逆紹介の推進、地域住民への働きかけ、医療クラークの活用などによる外来対応時間の縮減。主治医制からチーム制への推進。会議や委員会などはなるべく勤務時間内に終了する。当直免除やタスクシフトなど子育て中の女性医師に対するさらなる支援。

医師の働き方改革においてはタスクシェアも重要な要素となる。第一に特定行為看護師の活用が挙げられる。当院においては10名が看護特定行為研修を終え、手術室において麻酔科医の補助を担っている。次に臨床工学技士の活用であり、鏡視下手術におけるスコープオペラータなどの業務を予定している。

勤務環境改善として、ICTを活用し診療の効率化を図ることも今後の課題である。当院の循環器内科ではバイタルリンクを導入し、救急外来での運用を試験的に開始した。

最後に、医師の働き方改革に内在する懸念材料について述べる。医師によっては労働時間がむしろ長時間となってしまう可能性が否定できない。対応策としては提供する医療を減らすか、医師を増やすしかない。また、人件費や、ICTなどの設備費の増加は避けられず、病院経営を圧迫する可能性がある。場合によっては病院の再編・統廃合のきっかけとなりうる。

以上、当院における医師の働き方改革への取り組みについて述べた。

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