働き方改革への取り組みと地方病院の現状

平野 浩紀

高知県働き方改革への取り組みと
地方病院の現状

高知赤十字病院
平野 浩紀

政府の目論む働き方改革は、太古の昔から医師の世界に蔓延っていた、【寝ずに患者を】【家庭を犠牲にしても】【上より先に帰るなんて】などの聞きなれたキーワードを消し去る画期的な改革・・・かもしれません。
ご存知のように労働基準法の法定外労働時間の計算方法は<1カ月の総労働時間−(計算期間1カ月の総歴日数/7)×40>であり、それをもとに当院事務方では年間960時間のA水準に向けて様々な努力を行っています(図1)。現在この水準を超えている医師は119名中1人となっています(図2)。

図1
図2

当院は産婦人科医師数5名(専門医3名、専攻医2名)で、男性4名女性1名の構成です。分娩数約650件/年、手術数約500件/年を取り扱っており、夜間休日の分娩、手術、処置、回診はその日担当のオンコール制で、日勤帯はチーム制と主治医制のハイブリットで行っています。当科独自での時間外労働短縮に向けての努力といえば、夜間休日は余程のことがない限り主治医は呼ばれることのないチーム制をとっていることと、積極的に有給休暇を消化することです。有給休暇をとれば前述の法定外労働時間計算式の1カ月の総労働時間が減少することになり、おのずと法定外労働時間は減少していきます。当院での日勤帯は午前中が外来、手術、分娩で一番多忙な時間帯であり、午後には外来、手術が徐々に終わりを迎え、15時には分娩誘発崩れのみが残っているパターンが多いようです。夕方にはもちろん自己研鑽に励む者、書類作成などのデスクワークに勤しんでいる者もおりますが、前夜のお産で寝不足のため机で寝ている時、ママさん医師が家族の夕食の買い出しに行かなければならない時などは短時間ですが積極的に有給休暇を取得するように勧めています。よく働きその分よく休む作戦です。もちろん部長である私は定時退勤を心掛け、部下が早く帰りやすい環境を作っています(最近はそんなことに気を遣う人は希少ですが)。
このような努力を行っておりますが、この働き方改革全般は医師が多数勤務している都会の病院での理想論ではないかと考えることもあります。決して都会とは言えない高知県では、分娩数は減少の一途で、医師は高齢化し、分娩施設(特に分娩を取り扱っている個人医院)も減少し分娩の集約化が進んでいます(図3)。“見かけの”産婦人科医師数は2〜10人以上/施設で十分と思われるかもしれませんが、“見かけの”の意味は様々な理由により日勤帯のみ勤務する医師の存在を指し、時間外の勤務はそれ以外の医師によることになります。独自アンケートによると医師一人当たりが扱う適正分娩数は年間100例程度との返答が多かったが、[1,000例を10人で扱う都会の病院]と[100例を1人で扱う地方の病院]では医師の肉体的、精神的負担は明らかに異なります。働き方改革では勤務の時間のみに重点が置かれていますが、地方の病院にありがちな医師の肉体的拘束、精神的拘束感には言及されていません。「ほとんど呼ばれないんならいいんじゃない?」と政府の方は思われるかもしれませんが、近々に1人でも分娩予定者がいれば産婦人科医は病院から遠く離れることはできません。昔ながらの医師の使命感、奉仕の精神のみに頼っている状況です。
医師不足の地方(中でも県庁所在地以外)では、本当の意味での働き方改革と充実した医療の提供を両立させるためには、時間外勤務が可能な医師の充足が必要不可欠であると考えます。

図3

事例紹介