石川県石川県立中央病院産婦人科における働き方改革
石川県立中央病院婦人科科長
水本 泰成
石川県は縦に細長く、能登北部、能登中部、石川中央、南加賀の4つの医療圏からなる。出生数の減少は著しく、2008年の1万人から毎年減少傾向で2022年には8,000人を下回ってきている。石川県の周産期医療の特徴は、①分娩の7割が石川中央医療圏に集中していること、②分娩の8割弱が産科クリニックで行われていること、③4つの周産期母子医療センターが石川中央医療圏に集中していることが挙げられる(図1)。
産科クリニックの医師の高齢化は進んでおり、また過疎化の進む能登北部から中央医療圏の周産期母子医療センターへの母体搬送には、陸路で2時間以上かかる地域特性も抱えており、地域行政を巻き込んだ、周産期医療体制の再構築は喫緊の課題である。
石川県立中央病院の立場で、数年前から取り組んできている働き方改革対策を述べたい。当院は総合周産期母子センターで許可病床数630床(NICU24床/MFICU6床)から成り、産婦人科医14名、新生児科5名が勤務している。年間分娩数約500件で、県全体の分娩数減少の中、10年間横ばいを維持している。母体搬送受け入れ件数130件、手術件数800件を行っている。宿日直許可を取得しており、2名の宿日直体制で夜間休日を運用し、MFICU要件である24時間医師常駐規定もほぼ満たされている(図2)。
周産期医療における役割の一方で、当院は若手医師にとって、鏡視下手術や悪性腫瘍手術の修練の場でもある。産婦人科医14名のうち産休(2名)、時短勤務(1名)など慢性的なマンパワー不足の状況の中でA水準をクリアし、且つ産婦人科医の負担を軽減し、高いモチベーションを維持できるよう、適切な勤怠管理に苦心している。病院として様々な働き方改革への対応を行う中で(図3)、科として有効に機能していると感じるのは、代償休息の制度とタスクシフトである。
宿日直許可を取得している当院ではあるが、母体搬送があれば、宿日直は「いわゆる寝当直」から「時間外労働」に一変し、9時間のインターバルを確保することは不可能である。しかしながら、日常的に母体搬送を業務に組み入れるほど、その頻度は多くはない。宿日直の翌日の勤務に関して、柔軟性を持たせるため、代償休息制度は有効である。代償休息は、宿日直中に9時間のインターバルを確保できなかった場合、「時間外労働」時間に応じた分、翌月末までに休息に充てることができる制度で、別日との合算も可能である(図4)。
若手医師がキャリア形成の場として重要視している外来診療や手術執刀の機会を逸することなく、比較的余裕のある時間帯をリフレッシュに利用できるメリットがある。管理者にとっては、翌日の勤務を考慮せずに宿日直表を組めるメリットがある一方で、代償休息の取得を後押しできるようなチーム医療体制が必要条件であり、当院では有効に活用できている。タスクシフトに関しては、チーム医療体制と助産師、メディカルクラークの活用が肝となっている。病院のサポートもあり、当科では外来診療室毎にクラーク1名が配置されており、外来診療における検査オーダー・予約・書類作成などを代行してくれるため、担当医は患者の診察や病状説明に注力できる。低リスク妊婦の分娩管理を助産師にタスクシフトしたこと、二交代制の救急救命センターが、緊急を要さない産婦人科患者の対応をしてくれること、科内では14名、3チーム制によるタスクシェアなど効力のある医師労働時間短縮計画(図5)などを整えつつ2024年4月に備えている現状である。