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周産期医療情報のネットワーク化

 厚生省により全国的規模で進められている、「周産期医療のシステム化」プロジェクトでは、人口100万人に対し、中心的に機能する総合周産期母子医療センターと、それに準ずる複数の地域周産期母子医療センターを設置し、地域の医療機関と有機的に連携できる体制をめざしている。このプロジェクトを効率よく運営するには、施設の拡充とマンパワーの確保にくわえ、医療施設間相互に、また妊娠中から新生児期までを通して、スムースな情報伝達システムを確立する必要がある。そのためには、医療情報の標準化、ネットワーク化が不可欠であるが、これまでなかなか実現しないのが現状である。医療機関へのコンピュータの導入が遅れがちであったことも一因であるが、最大の理由は医療情報の所属、保存、開示の問題が解決されていなかったためである。これに対し厚生省は平成11年4月、電子媒体による診療録の保存(電子カルテ)を認めることを全国の医療機関に通達し、さらに国立病院の統廃合に際しては、病院の機能別グループ化を進めるために、電子カルテ使用およびネットワーク化を導入すると発表した。
 厚生省ホームページより医療情報提供について

 文部省も国立大学附属病院において、遠隔診断システムを積極的に推進する方向性を示しており、すでに9大学において予算化がなされている。

 これに対し郵政省は平成10年度の補正予算で、次世代超高速全国縦断ギガビットネットワークを試験的に設置し、医療の分野においても高度な利用を期待している。
 通信放送機構ホームページよりギガビットネットワークシンポジウム'99開催結果

 さらに通産省は厚生省の了解のもとに、電子カルテの開発のみならず、医療情報のネットワーク化が今後の国民の医療に不可欠であるとの観点から、平成11年度から5年間をめどとして、西日本(香川県、大阪府など)を中心とした実証試験を予定している。

 従来から困難とみなされていた高いハードルが、各省庁により一気に取り払われたわけで、これからの5年間は周産期管理の電子化、ネットワーク化においてのみならず、我が国の医療のありかた全般にとって大きな変革点になると思われる。

 香川医大においては、平成11年10月から文部省の予算による画像診断を中心とする遠隔診断システムが稼働開始し、地域における遠隔画像診断、遠隔病理診断に威力を発揮しつつある。
 香川医大ホームページより遠隔診断システム概念図

 また香川医大は平成12年1月に上にのべた郵政省のギガビットネットワークとも接続され、北海道大学、東京大学との間で超高精細画像や動画を中心とした研究「ギガビットネットワークを利用した病院間リアルタイムコラボレーション実用化に関する研究」がスタートすることになっている。

 これらプロジェクトのすべては本情報処理検討委員会の活動なくては実現しなかったわけで、本委員会の存在意義は非常に高いといえよう。

 

1.香川健康福祉情報ネットワークの構築

 この様な社会的背景において、香川県においては母子保健医療支援のためのモデル事業として、平成10年10月より県内の周産期医療機関を相互に通信回線で結ぶネットワーク「香川健康福祉情報ネットワーク」をスタートさせた。
 本ネットワークでは、
  香川医大母子センター
  町立内海病院(小豆島)、
  坂出市立病院
  県立津田病院
の4施設の光カードを用いた周産期管理システムがISDN回線により常時接続されている。4施設がネットワークにより周産期医療情報を共有することにより、仮想的にあたかも一つの医療施設として運用することができるようになり、地域におけるハイリスク妊娠の管理に大きな威力を発揮している。
 本ネットワークは“日母光カード標準フォーマット”に準拠しているため、光カードを介してさらに他の医療機関との情報交換も可能である。

 

2.香川健康福祉情報ネットワークの運用状況と実績

 香川医大を含む4病院の年間取り扱い分娩数は約800例である。香川県全体の出産数はおよそ9300例であることから、本ネットワークで管理される妊婦の割合は約9%に相当する。本ネットワークの運営がスタートして以来1年間における香川医大の母体搬送症例は30例であり、そのうち3病院からの母体搬送は8例(26.6%)であった。その他の施設はほとんどが診療所であり、これら3病院にかなり多くのハイリスク妊婦が集まっているものと考えられる。
 その内訳は、町立内海病院4例:奇形2例、羊水過多、重症妊娠中毒症、県立津田病院3例:奇形、切迫早産、前置胎盤、坂出市立病院1例:子宮内胎児発育遅延の合計8例である。これら3病院からの症例はすべて、本ネットワークによる早い時期での情報交換と、それによるスムースな母体搬送により全例救命可能であった。
 一方他の診療機関からの母体搬送は、切迫早産、胎盤早期剥離、多胎、奇形が中心であった。22例中4例(18%)に周産期死亡が認められ、本システムで接続されていればさらに予後が改善されたと思われる症例が認められた。また母体搬送されない場合でも、香川医大と3病院の間は常に情報交換が可能であり、ハイリスク妊娠の管理に大変役立っている。今後、地域の診療所や病院が本ネットワークに加入する事により、病・診連携がさらに充実し、今後の周産期医療の向上に大いに貢献するものと思われる。

 

3.他地域におけるネットワーク化と妊婦の在宅管理の状況

 周産期医療をネットワーク化しようとする試みは全国的にも広がりをみせており、高知県においては高知医大を中心とした「地域周産期医療支援システム」が稼働し、病・診連携の強化に威力を発揮している。香川県のシステムと高知県の周産期ネットワークシステムは光カードを介して情報の相互交換が可能であり、後に述べる新生児学会のワークショップで実証することができた。今後はネットワークによる接続が重要な課題である。
 国立大蔵病院においては、テレビ電話システムと小型分娩監視装置を組み合わせた在宅妊婦管理が行われ好成績をあげている。周産期医療情報の標準化が進むことにより、病院と診療所のみならず、病院・診療所と家庭との間でバリアーフリーに情報が流れるわけで、その意義は非常に大きい。

 

4.第2回情報処理検討委員会

 平成11年7月12日に第35回日本新生児学会が高松市で開催されたことにあわせ、ワークショップ“ネットワークを用いた胎児新生児モニタリング”と題し、本委員会のこれまでの活動内容を発表した。
 ワークショップ終了後、香川医大における周産期管理システムの見学がなされ、翌日午前に小豆島町立内海病院において周産期ネットワーク管理システムの見学、および実際のデータ転送などに関して質疑がなされた。午後にはホテルオリビアンにおいて平成11年度第2回情報処理検討委員会が開催され、活発な意見交換が行われた。
 本委員会のメンバーの他に、香川県健康福祉部医務福祉総務課の倉本係長が特別参加され、周産期医療における行政の取り組みに関して、本ネットワークにより少しでも周産期医療の向上に貢献できれば、行政としては大変効率よい投資であるとの意見がなされ、今後の本委員会の活動に大きなはずみになるものと思われた。

 

5.日母フォーマットの関係機関へ啓発と電子カルテ化、ペーパーレス化の推進

 既に述べたように、厚生省の了解のもと通産省による電子カルテとそのネットワーク化の実現にむけ実証試験が進められている。今後HL7やXMLをベースにしたものが標準となると思われるが、これらの方式は周産期医療情報(主として数値情報)の記載には適していない面がある。周産期医療情報の標準化、および胎児心拍数記録の標準化に関しては、本委員会によりすでに“日母光カ−ド標準デ−タフォ−マット”および “日母胎児心拍数情報ファイルデータフォーマット”が制定されており、医療情報学会や通産省からも注目されている。電子カルテ導入のメリットの一つにペーパーレス化があるが、すべての診療録を一気に電子化することはなかなか困難であり、このことが電子カルテの普及を遅らせている一因である。ただし胎児心拍数に関しては自動的に記録が可能であるため電子化しやすく、すでに磁気媒体や光磁気ディスクに記録している施設も多いが、完全にペーパーレス化している施設は少ない。胎児心拍数のデジタル記録が完全に法的に認められれば、記録用紙の保存スペース一つをとっても医療機関へのメリットは非常に大きく、今後の電子カルテの普及に多大な影響をあたえるものと思われる。本委員会としては、日母フォーマット、とくに“日母胎児心拍数情報ファイルデータフォーマット”を医療情報学会など関係機関へ提示し、産婦人科以外の領域においても認定される方向に啓発活動を行う必要がある。

 


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