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周産期医療情報のネットワーク化

 本委員会においては、将来における医療情報の電子媒体への記録とそのネットワークによる運用を視野に入れ、他の医療分野にさきがけ、1994年に周産期管理における文字情報、数値情報に関する記録法の標準化、1998年に胎児心拍数情報記載の標準化に取り組んできた。 【参考
 当初は母子健康手帳の電子化を想定して、光カード(母子健康カード)への標準的記録法の制定が主な目的であったが、本標準化により互換性のある複数の周産期管理用電子カルテの開発が可能になっただけでなく、情報ネットワークを介して異なる施設の電子カルテを相互に接続することが可能となったことは、非常に意義のあることである。

(1) 周産期ネットワーク

 香川県では現在8か所の医療機関の電子カルテがネットワークで接続され、周産期医療の向上に威力を発揮している。

 同様のシステムは、本年度石川県にも導入され能登半島北部の4病院と、石川県中央の3基幹病院(計7施設)がネットワーク化され稼働を始める予定である。

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 この他にも、山梨県立中央病院、熱海市安井産婦人科にも同様のシステムが導入されており、今後これらの施設を相互にネットワークで接続し、全国規模の周産期ネットワークを実現することが重要な課題である。また現在進められている、厚生労働省による周産期医療のシステム化プロジェクトが、全国で実施に移され、しかも効率よく機能するためにもネットワーク化は不可欠である。今後、妊婦検診は診療所で、分娩は周産期センター等で集中的に扱われるようになることが予想されるが、本システムは、妊婦検診と分娩の分業体制を効率よく行う上でも大いに役立つと思われる。

(2) 在宅妊婦管理システム

 ハイリスク妊婦の在宅管理に関しても、装置のさらなる小型化、モバイル化が実現し、すでにパケット通信を用いたモバイルのシステム(i-modeと同種のDoPa技術)により、妊婦はもちろん、医師側も病院、診療所以外のどこからでも、胎児モニタリングが可能となっている。

 胎児心拍数の伝送に関しても標準フォーマットを採用しているため、周産期電子カルテの中にそのまま取り込むことが可能である。今後、在宅ネットワークと電子カルテネットワークが有機的に統合されることにより、妊婦の家庭とすべての医療機関一体となったネットワークシステムが実現すると思われ、このような意味で、これからの電子カルテは個々の機能が充実していくことはもちろんであるが、相互にネットワーク接続できることが必須の条件となるであろう。上に述べたように、周産期の領域ではネットワーク化が実現しつつあるが、一般の診療科に関しては、標準化が困難なこともあり、個別に独自の電子カルテの開発は行われているものの、そのネットワーク化に関しては困難視されていた。

(3) 国立成育医療センターの情報システム

 3月1日からスタートする国立成育医療センター病院では、コンピュータ化によるいわゆるペーパーレスのシステムを導入している。しかしコンピュータを利用するシステムの目的はペーパーレス化ではなく、患者の安全確保、医療の支援、研究の支援、患者のアメニティーの向上、経営の効率化、容易で即時性の高い情報発信などを行うことにある。

 コンピュータを利用するシステムによる患者へのメリットの第一は安全の確保と考えている。残念なことではあるが、昨今取り上げられている医療事故の内容には手術や処置、処方、検査の誤りなどが挙げられる。これらに共通する問題は患者の取り違いである。従って患者が間違いなく確認されれば、多くの取り違いは避けられる。このために当院ではバーコードを採用している。入院患者には手首にバーコードをつけていただき、手術や処置、輸血、採血に際しては入力されたオーダーとの整合をベッドサイドで再確認する。

 第二は患者のアメニティーの向上である。具体的にはベッドサイドに、リラックスできる、必要な情報の入手、患者の家族にも優しい、を目的としてベッドサイド端末を配備している。ベッドサイド端末はCATV、インターネット、テレビ電話の機能を持ち、配信内容としては病院施設案内、医師・看護婦情報、入院オリエンテーション、術前オリエンテーション、服薬指導等を常時提供している。さらに自分の電子カルテの内容を閲覧して、診療経過を知ることが可能である。

 コンピュータシステムの医師、看護婦へのメリットとしては、医療情報にもとづく診療の質の向上、チェック機構、診療経過のデータベースによるEvidenceの集積があげられる。一例をあげると、小児患者の投薬に際しては事前に入力された年齢、体重などにより投与薬剤の極量などの情報がフィードバックされる。また検査の正常値はデータのある場合は胎児から始まり、新生児期の日齢、月齢に対応して表示がなされる。なお全ての医師は全ての患者の医療経過を閲覧することが可能であり、これは患者のプライバシーの保護と医師の医療行為に対するチェック機構の作動による患者の安全とを比較して採用された方針である。第二の医療関係者へのメリットは研究系システムである。作成されていくデータベースは、通常の臨床研究はもとより、即時性の高い疾患発生状況の研究などの疫学的研究、医療経済学研究、これらの基盤整備を目的とする医療情報研究を容易にするツールとして大きく貢献すると期待している。病院の管理・運営関係者へのメリットとしては、診療収入、物品購入、人事管理などがあげられよう。レセプト電算化による人手の削減、物品の一元管理による効率化が期待されている。これらは病院へのコンピュータシステム導入の先進国である米国では、導入の第一の目的とされている。

 以上、国立成育医療センターの情報システムを紹介したが、医療に拘わる情報をコンピュータ化する目的を上記のように定めて稼働するシステムが、どのような成果をあげることができるかはこれから検証される。

(4) 厚生労働省による「診療録等の電子媒体による保存について」に関する通達

 1999年 4月に厚生労働省が、健康政策局、医薬安全局、保険局の3局長名により「診療録等の電子媒体による保存について」とする通達を出したことをきっかけに、医療へのIT導入の機運が急速に高まった。 この背景には、HL7(XML)等に代表される医療情報の標準化が進みつつあったことに加え、医療水準の向上、および医療経済の効率化が視野に入っていたと思われる。

(5) 厚生労働省による「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」

 電子カルテのネットワーク化の重要性は、厚生労働省による「平成13年度の保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン(第一次提言)」においても再確認されており、その一部を引用すると、「保健医療分野の情報化の目標と課題」、<情報化を進めるために何をするか>、とし、さらにその中で、「電子カルテシステムのあるべき姿」として“電子カルテを導入する医療機関は増加しつつあるが、地域医療連携という視点からは医療機関相互のネットワーク構築はほとんどなされていないのが現状であり、このようなネットワーク化を進めていく必要がある。このため、今後、地域の中で中核的な役割を担っていこうという医療機関を中心に周辺の医療機関を結ぶモデル事業などを通して課題を検討し、導入に向けての環境整備を進めるべきである。”と記載している。

 まさにこの内容は、本委員会で進めてきた、周産期医療情報の標準化ならびにネットワーク化構想に一致する。

(6) 「四国 4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」

 経済産業省は厚生労働省と協力して、技術開発の側面から電子カルテネットワークのプロジェクトを推進しており。2001年には「先進的IT活用による医療を中心としたネットワーク化推進事業−電子カルテを中心とした地域医療情報化」のテーマで、全国26地域においてプロジェクトを進めている。 【参考】財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)

 「四国 4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」は、26地域の中で最大のプロジェクトであり、そこでは四国 4県が共同して、県域を越えて診療所と中核病院の間で医療情報の交換を可能とし、広域での医療機関の連携をめざしており、将来的には全国規模での展開を視野に入れている。本プロジェクトにより、従来困難視された、複数のメーカー(計8社)が開発した異なる診療所用電子カルテ、および検査会社(計5社)による連携を、データ交換の標準規約(HL7、XML)を用いることにより、ネットワーク上で初めて実現した。現在四国全地域で中核病院を含む 約100の医療機関が実証試験に参画している。

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香川県においては、上に述べた一般診療所と中核病院(香川医大の病院情報システム)の連携に加え、これまで行ってきた周産期管理用電子カルテネットワークのさらなる充実、ならびにケーブルTVを用いた高齢者の在宅健康管理システムと電子カルテとの連携を重要な課題としている。

(7) 香川県における今後の「地域医療ネットワークの整備事業」への取り組み

 香川県はこれまでの県のモデル事業としての、「周産期ネットワーク」、「遠隔画像診断ネットワーク」、「在宅高齢者の健康管理」、ならびに「四国 4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」の実績をうけて、平成14年度の県事業として「地域医療ネットワークの整備事業」に関する予算を計上している。今後電子カルテネットワークと遠隔画像ネットワーク、在宅医療ネットワークを有機的に統合を実現することが最も重要な課題と考えている。我が国における、医療全般に関する医療ITの現状と今後の展開に関して述べたが、これらのすべては本委員会のこれまでの活動と関連しており、今後とも本委員会活動として医療ITの推進に積極的に取り組む必要がある。