平成16年度 情報システム委員会 答申

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□ 名簿



□ 電子会議についての検討



 

5. 産婦人科医療における電子化、ネットワーク化

 政府は我が国が世界最先端のIT国家となることを目指して、2001年1月にe-Japan戦略を策定し、同年3月に具体的な実施計画としてe-Japan重点計画を発表した。その後2002年にe-Japan戦略II、2004年にe-Japan重点計画-2004を次々と打ち出し、さらに本年2月には、その総仕上げともいえるIT政策パッケージ-2005を発表している。
 e-Japan戦略の策定当初は、ネットワークの基盤整備に重点がおかれていたが、e-Japan戦略IIにおいては、ネットワーク基盤を利用するコンテンツに重点が移り、先導的7分野のIT活用として、第一に医療が取り上げられた。その後e-Japan戦略では、医療が常に中心的テーマとして取り上げられ、e-Japan重点計画-2004においては、ITを活用した医療情報の連携活用、特に電子カルテのネットワーク転送、外部保存等により、患者の医療情報を医療・保健機関間で連携活用できる仕組みを2005年度までに確立するとされている。さらにIT政策パッケージ−2005では、レセプト電算化、電子カルテの普及促進、遠隔医療の推進が具体的に取り上げられ、特に電子カルテに関しては、その導入及び運用に係る負担の軽減を目的として、Web型電子カルテの導入が明記されている。
 これまで本委員会では、Web技術による周産期電子カルテの普及を推進してきたが、その構想は、我が国のe-Japan戦略とまさに一致するものである。

(1) ネットワーク対応Web版周産期電子カルテの開発

 厚生労働省により全国的規模で進められている、「周産期医療のシステム化」プロジェクトでは、総合周産期母子医療センターと地域の医療機関が相互に有機的に連携できる体制の確立が不可欠である。また最近産科オープン・セミオープンシステムの導入が大きな話題になっており、これまで以上に緊密な病・診連携が求められる時代となっている。その意味でもネットワーク対応の電子カルテの実現が待たれている。ネットワーク上で電子カルテの情報を確実に交換、保存するためには、医療情報記述の標準化が必須であり、情報システム部では1999年に“日母標準データフォーマット”を制定している。香川県においては、6年前より県のモデル事業として県内の産婦人科医療機関を結ぶ周産期電子カルテネットワーク(日母フォーマット準拠)が稼働している。ただし従来の電子カルテは、個々の医療機関のパソコンにソフトをインストールする必要があるため、導入及び運用の経費が高くなりがちで、普及に向けてのさらなる工夫が待たれていた。

(2) Web版周産期電子カルテの開発

 光ケーブルや、ADSLに代表されるいわゆるブロードバンドの普及とともに、Web技術を用いた非常に多彩なソフトが実用化されてきた。今回開発したWeb版周産期電子カルテは、Web技術を応用した画期的なもので、インターネットに接続されたパソコンであれば、Webブラウザ(Internet Explorer)を用いることにより、全国全世界のどこからでも利用できることが大きな特徴である。ソフトのインストールが必要ないため、維持費を非常に安価(月数万円程度)にすることが可能で、また周産期情報はすべてセンターのサーバーに保存されるため、これまでの情報管理の煩雑さも大幅に軽減する。個人情報保護法の施行が大きな話題となっているが、その観点からも大変使いやすいシステムと考えられる。今年度、香川県の周産期ネットワークにあらたにWebサーバーが導入され、そこに今回開発したWeb版周産期電子カルテ(文部科学省科学研究費による)を搭載することにより、香川県の医療機関はもちろん、全国の医療機関がどこからでも利用できる様になった。IT政策パッケージ-2005に明記されているように、今後の電子カルテは、Web技術を応用したネットワーク対応の電子カルテが主流になると思われる。

(3) セキュリティを確保した医療用ネットワーク(UMIN-VPN)

 インターネットを用いて医療情報を送るためには、厳格なセキュリティ確保が大前提となる。そこで、2003年度に厚生労働省の研究班「電子カルテネットワーク等の相互接続の標準化に関する研究班」(班長:UMINセンター木内貴弘教授)が組織され、セキュリティを確保した医療用ネットワーク(UMIN-VPN)が制定された。香川県の周産期ネットワークにはこのVPN装置が設置されており、全国の医療機関がセキュリティを保ちながらネットワークに接続することができるようになっている。

(4) 厚生労働省班会議におけるWeb版周産期電子カルテの試験的導入

 厚生労働省では、次年度より産科オープン・セミオープンシステムと全国8地域において試験的に導入する予定で、班会議(班長:愛育病院中林院長)が組織される。中林班長は、これらのいくつかの地域において本システムを試験的に運用する意向で、その前段階として、愛育病院と関連の医療機関(診療所)との間で、すでに運用を開始している。

(5) 第28回日本産婦人科ME学会シンポジウム

 平成17年8月26日(金)、27日(土)に高松おいて第28回日本産婦人科ME学会が開催されるが、この機会に本委員会と厚生労働省班会議の共催の形で、『ユビキタスネットワーク時代における周産期電子カルテネットワーク−特にセミオープンシステム導入におけるシームレスな病診連携へむけて−』、というテーマでシンポジウムを予定しており、ネットワーク上で実際に本Web版周産期電子カルテを供覧する予定である。

(6) 携帯端末(iApri)を用いた在宅妊婦管理システムの実運用

 ハイリスクの妊婦管理においては胎児心拍数の連続モニタリングが最も重要である。今年度は香川県および岩手県において、実際の在宅妊婦の管理に実際に応用した。香川県の様な平坦な地域はもちろん、山間部の多い岩手県においても、モバイルによる在宅妊婦管理システムは非常に安定して作動した。医師側(データ受信側)に関しても、病院などの施設に限らず、携帯末端を通じて全国どこからでも、また移動する環境においても安定して受信できることが確認された。本システムはWeb版周産期電子カルテのサーバーと連携することにより、電子カルテ上で在宅の妊婦のデータ参照も可能であり、その臨床的意義は非常に高い。

(7) ネットワークを用いた女性の生涯健康管理

 現在経済産業省では、ITを用いての健康サービス産業創出支援プロジェクトを強力に推進している。香川県では、従来から構築してきたかがわ周産期ネットワーク、かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)をベースとして、日常の健康増進、維持を目的として、生涯健康カルテネットワークの構築を推進している。データ形式は保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)の推進するHDMLに準拠している。健康診断の結果やモバイルを含めた健康器具から得られたデータ(体重、血圧、体脂肪率等)をネットワークを用いて収集、分析し、実際に健康食品、運動、観光などが健康に好影響を与えるかを科学的に実証する。自分自身の健康情報をグラフ化してみることもできるため、個人の健康管理にも役立つ。本システムを用いて、JR四国バスの運転手の健康管理、ならびに四国独立リーグ(アイランドリーグ)の健康管理の話が進んでいる。また特に女性に関しては日常的に、体重、体温、血圧、体脂肪率、骨密度等を測定することにより、ダイエットの効果、基礎体温、更年期障害の管理まで、女性の生涯を通しての健康管理に役立てることが可能である。