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今年度新規事業 |
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[4]医療安全・紛争対策部
医療は、ヒューマニズムを基盤としてなされる人間的行為である。
しかし、いかに患者のための善意の行為であるとはいえ、医療事故(過誤)は免責されるものでない。医療の安全確保は急務であり、社会的にもその要請は強い。
医療の安全確保は、医療人としての人間性の向上(患者のための医療)、技術・技能の研鑽(医療水準の確保)が第一に求められる。さらに、「人は過ちを犯す存在」であり、その前提に立って対策を練ることが肝要である。その方策として、インシデント・アクシデントの報告・分析による予防策の立案とその検証、薬剤・医療機器の安全性確保、労働環境の改善により事故を起こし得ない態勢を作ることである。
医事紛争は、患者が期待する結果が得られなかった場合や患者に不利益をもたらすことになった時に発生する。この背景には、患者権利意識の高揚、障害を被った患者への支援体制の不備や一部マスコミによる狭視野的な報道が挙げられる。
母体死亡が分娩1.5万例に1例、新生児死亡が1,000人中2〜3人はあることは歴然とした事実である。現在の医療では避けられない羊水塞栓症による母体死亡、多くの新生児脳性麻痺等、産婦人科医療が背負っている数多くの課題やその現状について、社会的に正しい理解得ることも、医療事故・医事紛争の防止に不可欠な要因と考えている。
本年度は、医療事故対策(リスクマネージメント)の検討と、医療事故・医事紛争防止に向けた産婦人科医療を取り巻く課題や現状への社会的な啓発を取り上げて、国の「健康日本21」との連携、司法制度改革、正しい医療が歪められ兼ねない判例傾向(結果責任、弱者救済のための資金確保)等への対応を図るため、各支部と関連各部・諸団体(日本医師会、日本産科婦人科学会等)との密接なる連携のもとに、以下の事業を遂行する。
1.医療安全対策
- (1) 「インシデント・アクシデント/レポート調査結果」の作成とその活用
- 産婦人科診療における「インシデント・アクシデント/レポート調査」(調査期間:平成14年2月〜4月)の結果を作成し、同調査の協力会員(133名)・各支部に配付する他、広報部の協力を得て、注意喚起の一環として医会報に調査結果の概略を掲載する。
また、調査結果では、人としての宿命とも言える「患者の取り違え」「確認不足」「記載不備」等の些細なミスが特に目立った。このため、人為的な小さなミスがシステム上、施療上のトラブルへと発展することのないような対応策も含めた対処マニュアル(小冊子)の作成に向けて、同調査結果の活用を図る。- (2) 「医療安全推進のための研修会用資料」(仮称)の作成
- 医療安全推進のためには、各支部、各医療機関が積極的に研修会等でこの課題を取り上げることが必要であるが、平成13、14年度実施の主に中小産婦人科医療機関を対象とした「インシデント・アクシデント/レポート調査」の結果では、1.一般診療科とは異なる産婦人科診療特有の問題点や、2.医療安全対策(リスク・マネージメント)の目的が中小医療機関では十分に理解されていないのではと思われる問題点も抽出された。
このため、費用面や利用しやすい資料形態(CD-ROM他)等も含めて産婦人科独自の観点からの研修会用資料を検討・作成する。- (3) 小冊子「これからの産婦人科医療事故防止のために」の作成
- 医療事故予防の観点から具体的な問題に焦点をあてた小冊子を平成9年度より発行し、現在No.16まで発刊している。
本年度は前述調査結果から浮かび上がったいくつかの問題点への対応も視野に入れた「医療安全推進のための研修会用資料」(仮称)の小冊子シリーズを作成する。- (4) 「羊水塞栓症に関する調査」(仮称)の実施
- 羊水塞栓症は、その発症から転帰に至る機序から、往々にして医療事故・医事紛争に発展しやすい。本年度は、この疾患を疑われる症例の収集・調査・血液検査をし、正確な診断を付けることにより、疾患の実態調査・医事紛争への援助を行う。さらに、医療安全対策の資料として活用を図る。
- (5) 汎用されている「能書外使用」薬剤に関する検討
- 能書外でも実際には汎用されている薬剤を抽出・検討し、関連各部・学会等との協議も行い、必要により厚生労働省の追加適応を得るための働きかけを要望書提出等通じて行っている。本事業は、平成11年度の「能書外処方の実態調査」以後、継続事業として行っている。
- (6) 診療録開示における問題点の検討
- 診療録開示に関する見解作成や医事紛争対策上の問題点等を、医療対策部における検討と連携して行う他、診療録開示に伴う医事紛争関連の情報収集に努める。
2.医事紛争対策
- (1) 医事紛争事例の対応
- 支部・会員等より要請のあった事例については、解決への障害となっている事項や対策について、当事者、担当者、場合により法律家も交えての医学的、法律的な見地からのブレーンストーミング的な検討を通じて助言、支援を図る。
また、日本医師会担当者や法律関係者との密接な情報交換のもと、医学的・社会的な動向をも踏まえた“up-to-date”な情報の収集に努める。- (2) 鑑定人推薦依頼に対する対応
- 1) 日産婦学会との連携・協調
司法当局や本会関係者(支部や当事者)等からの鑑定人推薦依頼については、「鑑定人候補者リスト」を活用して、最も適格と思われる候補者を選定・推薦してきたが、司法制度改革の一環として平成13年7月13日に、最高裁判所内に「医事関係訴訟委員会」(各裁判所の鑑定人候補者選定要請をもとに、医学関連学会の中から最も相応しい学会を選び、鑑定人推薦を依頼する他、推薦された候補者の検討をも行う役割)設置された。このため、鑑定人推薦依頼への対応は日産婦学会が主体となることにより、今後は、側面協力を通じて、産婦人科専門医団体としての付託に応えて行く。
2) 「鑑定人候補者リスト」の整備
内部資料「鑑定人候補者リスト」の整備を、各支部ならびに学会と協力・協調して行い、鑑定人推薦依頼への対応に資する。- (3) 結審事例の検討
- 産婦人科関連の判決について、最新のデータによる分析、検討、集積を図る一環として、平成7年度より導入している判例体系CD-ROM(第一法規出版編)の更新(平成15年度版)を継続し、会議等にて過去の判例情報を必要とする場合や会員等からの依頼にも活用する。
- (4) 冊子「医事紛争シリーズ集」の作成
- 医会報掲載の“医事紛争シリーズ”をまとめた収録冊子を、既刊2冊(平成6年11月版、平成10年11月版/掲載開始の昭和54年5月から平成10年9月までの228回分の記事を収載)に引き続いて、記事の集積状況と医報体裁の改編(B5版縦書きからA4版横書き)等も考慮して作成する。
- (5) 産婦人科関連医薬品使用上の注意に関するパンフレット作成
- PL法やインターネットの活用等を背景に、改定が相次いでいる添付文書の「使用上の注意」を、産婦人科で頻用する薬剤に限り追録形式のパンフレットにして会員に配布している。本年度も必要に応じて作成し、対応する。
- (6) 支部月例報告
- 医事紛争の実情把握の資料として、支部月例報告(各支部から本部への月間定期報告)の中から医事紛争に関する事故報告の集積を図る。