6.早期支援について
聴覚障害児に於いても健聴児と同じく、主体性のある自立的な人間として育てることが育児の目的である。聴覚障害児の支援は“ことば”の訓練をすることではなく、聴覚障害があるために発達しにくい面を他の感覚(視覚や触覚)の活用を行いながら、心身の全体的発達を損なわないようにすることであり、聴覚障害をもちながらも個々の子どもの諸能力が最大限に発達するのを援助することである。
(1)早期支援の目的
脳の可塑性が認められる時期の学習が有効であることは広く認められているが、聴覚障害においても、早期支援が言語力、言語性認知能力を高めることが実証されている。早期支援は個々の子どもの諸能力が最大限に発達するのを援助し、児と家族の要望に応えて、コミュニケーション能力、生活能力、感情的な安定、自己の肯定的な評価などが獲得できるように計画されなくてはならない。
早期支援が効果をあげるためには、支援開始時期、個々の児と家族に対応した支援プログラムの幅広さと柔軟性、支援プログラム実施の密度、個人差を認識すること、支援専門家の直接の指導、家族支援などが重要である。
(2)親子関係確立の援助
親子関係が確立されることが、育児の根幹であるが、障害児(疑いの児も含めて)の場合には、児の障害や将来に対する不安を持って育児にあたることになるので、良好な親子関係の確立の援助がなお一層重要になる。保護者が、障害の告知によって混乱し悲嘆する時期を経て、これを乗り越え、育児に積極的に対することができるように、聴覚障害とその支援に関する正しい知識を持った者が加わって、支援やカウンセリングを行うことが必要である。支援に当たる専門家としては、言語聴覚士、ろう学校教諭、難聴幼児通園施設の指導員などが中心となり、小児科医、耳鼻科医、病院の臨床心理士、保健師、医療社会福祉士、児童相談所などの協力を得て、関係者の連携を取りながら行うことが望ましい。
子どもに接する時間が長い母親が育児の中心となる場合が多いが、母親のみに過重な負担がかからないように周囲の者の支援が必要である。良好な親子関係の確立が、子どもの発達に不可欠であり、また、子どもの発達全体の中で、言語も発達する。
(3)コミュニケーションの方法
コミュニケーションの方法としては以下に示すものが我が国で主に使用されているが、乳幼児期には児の状態に合わせ、聴覚活用を行いながら視覚活用も併用する(トータルコミュニケーション)ことが多い。
1. 聴覚口話法
補聴器装用あるいは人工内耳手術により保有聴力を活用して、聴き、話しことばによるコミュニケーションを行う方法である。口形を読む口話法(読話)も併用されることが多い。
2. 手話
手話(日本手話)はろう者の間に生まれた言語で、手指の動きを中心にして、頭や上体の動きと顔の表情、視線、口型などによって表現する視覚言語であり、日本語とは異なる独自の文法と語彙の体系をもつ。日本語に対応して手話単語を単に並べたものではない。他の言語と同様、乳幼児期の段階から触れることで自然習得が可能であり、ろう者やろう者の家庭に生まれた子供は手話を母語としている。その一方、手話と日本語の折衷的な構造を持つ日本語対応手話と呼ばれるシステムも口話教育を受けたろう者を中心に発展してきている。
3. キュードスピーチ
視覚を用いるコミュニケーション法であり、5つの母音の口形+行毎の手のサイン(キュー)で1つの音を表す。口話法を用いた場合に、口形では判別しにくい音の理解を助けるためにも用いられる。
4. 指文字
50音と数字を1字ごとに指の形で作る。手話で表現しきれない言葉、固有名詞など、新しい事柄で対応した手話が無い場合などに使用され、また、聴覚口話法と併用されることもある。
(4)早期支援とコミュニケーションの方法
乳幼児の場合は養育者とのコミュニケーションの確立が最重要となる。このため、コミュニケーションの方法の選択に当たっては家庭内で使用されている言語が重要な因子となる。保護者が適切に判断できるように十分な情報の提供と適切な助言を行い、保護者の希望にそった早期支援が必要である。どのような方法であっても、早期から行うことが望ましい。
保護者が健聴である場合は、聴覚を活用するコミュニケーションを選択する場合が多い。聴覚障害があっても全く聴力がないことは少ないので、保有聴力を活用し補聴器を装用して聴覚口話法の指導を行う。児の言語獲得の状況に合わせて、指導の過程で手話やキュードスピーチ或いは指文字等を併用する場合もある。一般的には聴覚障害の程度が重いほど視覚活用も多くなる。聴覚障害が重度で補聴器の効果が不十分な場合は人工内耳手術の適応も考えられる。
健聴の保護者が手話によるコミュニケーションを選択した場合は、手話による指導を行う。この場合は、家族の手話学習の支援も必要である。保護者がろう者である場合は、自然に手話を習得でき、養育者とのコミュニケーションが確立できる。
(*)補聴について
補聴器は、音のエネルギーを電気的エネルギーに変換して、それを増幅し、再び音のエネルギーに変換して耳に伝える。
一般に用いられる個人用の補聴器にはポケット形、耳かけ形、耳あな形(挿耳形)、骨導式、FM補聴器などのいろいろなタイプがある(図10参照)。また、従来からのアナログ補聴器に加えて、デジタル補聴器も普及しつつあり、雑音の低減や音の調整で優れているがまだ高価である。
また、学校などで用いられる補聴システムには磁気誘導ループシステム、FM補聴システム、赤外線補聴システムなどがある。
図10. 各種の補聴器(文献8より)
乳幼児に対してどのような補聴器を選ぶかについてはいろいろな立場があるが、耳の位置(イヤーレベル)で装用できる耳かけ形が最も多く使用されている。乳児で、まだ耳介が柔らかく耳かけ形が使用できない場合は、ベビー形補聴器が用いられる。また、医学的な理由で耳かけ形が使用できない場合や聴覚障害が重度の場合にはポケット形補聴器も使用され、両側外耳道閉鎖症など伝音性難聴の児には骨導補聴器が用いられる。また、両側の重度の聴覚障害で、一定期間の補聴器の使用後、その効果が認められない場合には、人工内耳手術の適応も考えられる。
耳かけ形はポケット形に比べて自分の声が聞きにくいという弱点があるが、音を耳の近くで拾うため、両耳に使うと音の方向がわかり、声や音源の方向に反応できて、コミュニケーションに有利である。多様な音質・音量の調整が可能で、幅広い聴覚障害に対応できること、両親が容易に調整可能であること、各種のイヤモールド(耳形耳せん)に対応でき、イヤモールドの調整により児の成長に合わせることができ、比較的壊れにくいことなどが、耳かけ形が幼児に多く使用される理由である。ポケット形は、マイクロホン(補聴器の本体)が胸元にくるように着用すると、自分の声が聞き易くなるが、コードがあるため活動を妨げることがあり、また、着用部の衣服のずれる音が入りやすい。
また、子どもの可動域が拡がり、離れたところから養育者の言うことを聴く必要が出てきたときにはFM補聴器の使用を考慮する。
補聴器の選択調整に必要な手順としては、先ず乳幼児聴力検査により、聴性行動反応の認められる閾値(反応が見られる最小値)を確認し、器種の選択と調整、イヤモールドの作成、装用指導、補聴器の扱い方などに関する養育者の指導などを行う。装用指導は1時間単位で長くする。装用時間が長くなると閾値が下降し安定してくる。補聴閾値と聴性反応の観察により再調整を繰り返す。イヤモールドの作成と調整は成長に合わせ、必要に応じて行う。両耳装用を原則とする。両耳の聴力レベルが70dB以上の場合は公的助成により補聴器が給付される(資料5、6参照)。
(*)人工内耳について
人工内耳とは、人工内耳インプラントを側頭骨内に手術的に埋め込み、体外にスピーチプロセッサを装着することによって、音の感覚を伝えることを目的とした手技である。スピーチプロセッサのマイクに入力された言葉の音は、特徴的な音の成分に分解された後に、アンテナから非接触でインプラントに伝えられた後、内耳内に置かれた電極が聴神経の神経節を刺激して音の感覚を作る。一般には90dB以上の高度な難聴で、半年以上補聴器を装用してもその効果が不十分な場合に、人工内耳の適応として考えられる。人工内耳を装用した後には、順調な場合、音場での聞きとりは平均40dBnHL程度、日本語清音の単音節では、80%以上の聞き取りが可能となるが、その結果にはしばしば大きな個人差が見られ、決してすべての場合で同じようになるわけではない。順調に経過が推移した場合には、発話明瞭度も改善してはっきり話すことが出来るようになるし、それに伴った言語発達も年齢相応に推移していくことが経験されている。逆に、デメリットとしては、人工内耳の装用のためには全身麻酔を伴った手術が必要となり、またしばしば電池や部品代を含めた維持管理費用は補聴器を使う場合よりも高額になることがある。日本耳鼻咽喉科学会の適応基準では、聴力の程度を確定した後、1歳6ヶ月以上で、適切な時期に手術時期を検討するということになっている。
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人工内耳:埋込み電極
(日本コクレア提供)
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人工内耳:スピーチプロセッサ
(日本コクレア提供)
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図11. 人工内耳
人工内耳の装用開始には手術が必要であるが、手術は人工内耳装用の始まりの一部にしか過ぎない。人工内耳をしても聴力が正常になるわけではないので、その聴力の程度に応じた教育や訓練、支援は継続的に必要となる。人工内耳の手術自体は保険診療の範疇で行うことが可能で、また自治体からの援助を受けることによって手術自体の費用は、あまり負担になることはない。費用についての詳細は自治体ごとに異なるために確認が必要である。
(5)わが国における聴覚障害乳幼児の早期支援体制
現在、わが国において厚生労働省管轄下の難聴幼児通園施設(資料3(1))ではゼロ歳から就学までの療育を行っており、聾学校幼稚部は(資料3(2))法的には3歳以上就学までの聴覚障害児の教育を行うとされながらも、現実には各校の工夫により「教育相談」の中で3歳未満児の指導も行っている。現在全国に難聴幼児通園施設は24か所あり、幼稚部を設置している聾学校は99校ある。また、少数であるが総合リハビリテーションセンター聴覚部門や一部の医療機関などでも療育を実施している。
早期支援機関(難聴幼児通園施設、聾学校幼稚部など)は検査・診断機関から紹介された聴覚障害児およびその保護者に対して、必要なサービスを行う。
また聴覚障害が軽度の場合など、耳鼻咽喉科医および言語聴覚士の指導・管理のもとで保育園や幼稚園に通園させることが効果的な例もある。重複障害児の療育については後述する。
(6)専門機関における早期支援
ア. 聴覚障害乳幼児に対する初期援助(聴覚障害発見時に取られる主な処置)
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聴覚障害は、早期に確定診断を受け、保護者が聴覚活用を希望する場合、可能なかぎり早く補聴器を装用し早期支援をうけることが望ましい。新生児聴覚スクリーニング実施後は生後3〜4か月で装用開始が可能になっている。
初期の援助は以下のスケジュールで実施する。
(ア) 聴覚の評価(精密検査機関で全てが実施されていなかった場合)
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・ | 医学的管理と処置
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・ | ABR(聴性脳幹反応)、BOA(聴性行動反応検査)、VRA(視覚強化式聴力検査)、COR(条件詮索反応検査)、OAE(耳音響放射)、ティンパノメトリなどを組み合わせて可能な限り早期に聴覚の種類と程度を確定する。
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(イ) 補聴器の選択とフィッティング
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・ | 可能であれば耳かけ形補聴器を両耳装用でフィッティングする。 (但し、ベビー形補聴器、ポケット形補聴器、骨導式補聴器を使用する場合もある。)
補聴閾値と聴性反応の観察により再調整を繰り返す。
装用指導(1時間単位で長くする。装用時間が長くなると閾値が下降し安定する)
イヤモールドの作成と調整(発達に合わせて必要に応じて再作する)
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(ウ) 保護者へのカウンセリング
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・ | 障害認識のためのカウンセリング
初期は障害の受け入れに拒否的であり情報を受け入れる姿勢ができていないため
何度も同じ質問、確認をしてくるので、繰返し丁寧に応接することが求められる。
聴覚障害の種類、程度、原因に関する説明をする。
将来の学校、就職に渡る情報を提供する。
実際の指導の見学や他の家族との関わりの場を提供する。
家庭環境を知り、適切なアドバイスをする。
以上のステップを相互に関連させながら繰り返し、両親の通園・通学の意志を確認した上で、定期的な通園・通学が可能になった時点で早期支援を開始する。
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(エ) 公的な障害児援助制度の利用
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イ. 0歳児における支援の概略
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早期療育の初期段階としての0歳児における支援の概略を述べる。
基本的には聴覚障害児であっても特別な育児をするわけではなく、普通の育児と同じであるという認識が必要であり、愛情を持ってこどもの養育を行う。
支援開始後は、定期的にBOA(生後6ヶ月まで)、VRA(6ヶ月以降)、COR(6ヶ月以降)を実施し、聴覚の評価、補聴器の調整を繰返し聴力の確定と片耳ずつの確認、および補聴器の適切な調整をする。
0歳児の療育は、以下の柱のもとで行う。
(ア) 聴覚活用(音の意味を知るのが最大の目標)
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・目 標 … | 音の世界へ導き、音の意味を知り音の概念の形成を促す。
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・方 法 … | いろいろな音を意識的に聴く機会を作り、音に気づき、かつ興味を持って傾聴する態度を育てる。
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・内 容 … | a. 楽器などで遊び、音を楽しむ。
b. 音のon-offに気づく。(検出)
c. 音源を確認する。(視覚、振動覚なども併用)
d. 分かる音を増やす。(弁別、認知)
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・留意点 … | a. リズムを体で感じる。(メロディーよりリズムの方が聞きやすい)
b. 音をオノマトペ(擬音・擬態語)で言語化し気づく。
(口の動きが注目しやすい)
c. 語感(強弱)に気づく。
(ことばの韻律部分の方が認知されやすい)
d. 音やことばに意味があることに気づく。
(実物を見せて聞く体験を多くする)
e. 補聴器を通して自分の声が聞き取れるようにする。
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・補聴器 … |
補聴器の再フィティング、イヤモールドの調整。
(2〜3ヶ月に一回作り直す)
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この時期は音や聴覚障害に関する理論より実際の装用(時間、させ方等)が重要であり具体的な装用指導や音源提示法が必要である。この場合、発達や探索意欲に合せた音源提示を行う事が重要である。
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(イ) コミュニケーション態度の促進
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・目 標 … | 人への関心、伝えたいという意欲をはぐくむ。
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・方 法 … | 受容的な態度でこどもと接する。
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・内 容 … | a. 人への注目を動機づける。(顔や動作への注目)
(意識的にはっきりわかるように働きかける)
b. 情緒的な関わりを育てる。
((表情、愛着等で気持ちのやりとりができる)
(身体接触、ほめる)
c. コミュニケーション態度の発達を促す。
d. こどもの行為を積極的に取り上げ、表現意欲を育てる。
(こどもにわかるように反応する)
e. 動作表現などを使い交信態度を形成を促す。
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・留意点 … | a. 視線を合わせて、話しかけ、受け止める。
b. 芸を促す。(認知、模倣)
c. こどものしぐさ、行動を積極的に模倣してやる。
d. こどもの動作(指差し等)が象徴性を持ち得るよう指導に配慮する。
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(*)
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乳幼児の場合は身体的接触やジェスチャー等の視覚的な手段の活用も重要である。特に高度難聴が疑われる場合は、視覚的な手段を積極的に使用し将来の様々な選択に備える。
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(ウ) 認知・理解
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・目 標 … | 認知力を促進する。視覚的な認知は聴覚学習の補助にもなる。
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・方 法 … | 実際にいろいろな物に触れさせ体験を多くする。
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・内 容 … | 探索意欲を高める。(色々なことを経験させる)
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(エ) 表現・発音
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・目 標 … | 自然な表現、表情、声を育てる。
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・方 法 … | 遊びや生活のなかで自然な身振りや発声を意識的に促す。
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・内 容 … | a. 声をだすと振り向く、喜ぶなど自分の声に意味があることに気づかせる。
b. 発声をいろいろな場面で常に動機づけるよう配慮する
c. 遊びや生活のなかで、自発的で自然な発声を促す。
d. 基本的な発声の遊びをする。(吹く、なめる、かむ・・・)
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・留意点 … | 視覚手段を使用し意味をはっきりさせながら発声を促す。
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(オ) 全体的な発育・発達(遊び、生活のことばの基本)
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・目 標 … | ことばの発達を支える身体発育、探索意欲、運動、社会性などの発達を促進する。
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・方 法 … | 遊び、生活のなかでことばに偏重せずいろいろな経験をさせる。
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・内 容 … | a. 散歩や戸外での遊びなど運動を通し、健康に注意する。
b. 生活にリズムを持たせ、生活習慣を確立させ場面とことばを結び付けやすくする。 (繰返しが重要)
c. 遊びを通し、意欲、認知力、指先の器用さ等の発達を促す。
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・留意点 … | こどもを受容し、こどもの意欲、自主性を大切にする。
感情の豊かな表出を促す。
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ウ. 母子・父子関係確立の援助
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・目 標 … | 乳児期は、こどもが両親、特に母親の近くにいる時間が長い時期なので親子関係の成立、ことばかけ、情緒の発達等に重要であることを理解してもらう。
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・方 法 … | 日常的な養育 (世話) をこまめにする。
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・内 容 … | こどもに積極的に関わり、かわいがる。
こどもからの信号を受け止め、こどもにはっきり分かるように返す。
母子・父子間の交流を確立する。(やりとり、役割交代等の手段を使って交信する)
両親がこどものよいモデルになり、こどもに模倣を促す。
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・留意点 … | 身体接触を大切にする。
両親自ら体を動かして一緒に遊ぶようにする。
はっきりしたことばや身振りでゆっくり表情豊かに話す。
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エ. 両親へのカウンセリング
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精神的な安定を得るために、話をよく聞くことが重要である。
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・目 的 … | 両親の精神的な安定を図り、親子関係を安定させ、育児環境を整えることにより将来に向けて積極的に生きて行けるようにする。
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・方 法 … | いろいろな機会を通して両親の考え方をよく聞く。
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・内 容 … | 情報収集をし、適切な情報を提供する。
障害認識のためのカウンセリングをする。
子育ては一人ではできないことを理解してもらう。
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・留意点 … | 分かりやすい接し方を習得してもらう。(通園・通学、資料などで意識化させる)
ことばを教えるのではなく、ことばをコミュニケーションの道具として使用できることを目標にする。
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この時期は、まだ十分に心の整理ができていないので、一方的に説明しても理解もできないし、ましてや実践もできないので、資料を用意し、具体的に説明しその場で実際にやりながら理解してもらう。
指導機関へ通うことで聴覚障害であること、そのために必要なことを理解してもらい、また資料等を使用して日々の家庭生活の中でそれらを理解・実践してもらう。
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<参考>
早期支援実施機関の指導例として、岡山かなりや学園(難聴幼児通園施設)、奈良県立ろう学校幼稚部、東京都立大塚ろう学校「きこえとことば」相談支援センターにおける指導の実際を以下に示す。
( I ) 岡山かなりや学園における0〜1歳の指導の実際
これは基本となるものであり、必要なものを随時取りいれていくものとする。
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A) 指導
| 個人指導 | 週1日以上 | グループ指導 | 週1日以上 |
| 母親指導 | 週1回以上 | ビデオ指導 | 月1回以上 |
| 両親講座 | 年6回以上 | 家族参観日 | 年1回、随時 |
| 家庭訪問 | 年1回 | 行事 | 年6回以上 |
家庭指導(発達チェック表による) 月1回チェック
聴性反応、表出(動作、音声)、理解(動作、音声)、コミュニケーション、
話しかけ方、遊びかた、補聴器装用状況、育児日誌の確認
B) 聴覚の評価 週1回以上、随時
| 発達に合わせた検査法を繰り返すことによって再現性の高い安定した聴覚評価が得られるようにする。
進行性の聴覚障害を画像診断と合せて監視する。
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C) 医学的評価 年5回、随時
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中耳炎などの好発年齢であるので、効果的な補聴器の使用のため定期的に耳の状態を確認する。
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D) ケース会議 月一回
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医師、言語聴覚士により来園児の医学的かつ療育的診断処置を行う。
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E) 補聴器の評価 月1回以上、随時
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聴力検査の結果をもとに、残存聴力の効率的な活用を図る。
デジタル補聴器の進歩にともなう再選択とフィッティングをする。
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F) 達成度評価 年5回以上、随時
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定期的に達成度を評価し、療育計画の立案、修正を行う。
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G) 発達評価 年3回以上、随時
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(II) 奈良県立ろう学校早期教育部における0歳児の指導
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A) 指導回数
B) 指導内容(個別と集団を組み合わせる)
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(1)親子ふれあい遊び、歌とリズム、絵本、屋外遊び、おやつなどの活動を通して、
コミュニケーションの実際を学ぶ。
(2)聴力検査とフィッティング
(3)家庭訪問
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C) 保護者支援
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(1)学習会(保護者のニーズにそって進める)
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子どもの発達と遊び、生活リズムと育児の工夫、ことばの発達とコミュニケーション、補聴器の活用と音環境への配慮、手話の活用と視覚的空間への配慮、絵や写真の活用、絵本のすすめ、福祉制度、聴覚障害教育の様々な場
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(2)出会いの場の提供
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保護者同士の語らい、先輩保護者との交流、幼稚部参観、児童生徒との交流、成人聴覚障害者に聞く
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(3)発達評価と指導計画の作成
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D) 関係機関との連携
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医療機関への訪問や文書連絡。保健センター・保育園・療育機関等への訪問。
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E) その他(保護者への情報提供)
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クラスだよりと情報紙の配布、連絡帳の記入、聴覚障害関係の書籍・ビデオ・定期刊行物の閲覧・貸し出し、関連行事の案内
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(III) 東京都立大塚ろう学校「きこえとことば」相談支援センターによる0歳児家庭訪問支援
東京都立大塚ろう学校「きこえとことば」相談支援センターでは平成15年度後半より新生児聴覚スクリーニングに対応して0歳児家庭訪問支援プロジェクトを開始している。
(1)0歳児家庭訪問支援の意義
1)特殊教育から特別支援教育へ―「場からニーズへ」「来談から訪問へ」―
新生児聴覚スクリーニングの拡大につれて早期支援機関の相談ケースも増加の一途をたどっているが、0歳児という最早期の支援においては、来談という親子に負担の大きい相談形態よりも、専門スタッフが家庭に出向く訪問支援という形態が重視される必要がある。特に、多胎児の場合や、幼い兄弟がいる場合、学校が遠い場合には来談は家族の負担が大きい。訪問支援自体は特段新しい支援形態ではないが、ろう学校にはこれまで制度的な限界があった。しかし、特別支援教育へ移行する中で、地域に住む聴覚障害児に対して、個々のニーズに応じてさまざまな支援を行うことが求められるようになり、「来談」という形態だけでなく、関係機関や家庭に「訪問」して必要な支援を行うという形態も積極的に行なわれるようになった。
2)学校から家庭へ―「特別な場」から「暮らしの場」へ―
家庭訪問支援を重視すべき理由のもう一つは、0歳の乳幼児にとっては、その生活の場は家庭であり、親子・家族との関わりが人間関係の主たる部分を占めているということである。家庭での「今、ここ」という実際の場面で、支援者がコミュニケーションのモデルを示したり、支援者と親・子が家庭にあるおもちゃを使ってあそんだりすることを通して、子どもと家族とが効果的で楽しい関わり方を学ぶ。そのためには、「学校」という「特別な場」よりも「家庭」という「暮らしの場」に即した場面のほうが効果的であることが多い。
また、それぞれの家庭の生活スタイルを尊重した無理のない方法で支援が進められる利点がある。これまで聴覚障害児の就学前教育においては、母親が仕事をやめ育児に専念することが求められることが多かったが、働く女性を支えるという観点からも、また、父親がわが子の育児・教育に積極的に関与できるという点からも、週末に行う家庭訪問や土曜相談などを今後さらに充実発展させていく必要がある。
(2)家庭訪問支援の内容
1)心理的ケア
訪問支援での相談内容は多岐にわたる。まず、相談の初期に求められるのは、リファーにおける障害の可能性の伝達や障害の告知によってショックを受け、自信をなくしている保護者、とりわけ母親を心理的に支えることである。
2)子育て支援
都市化や核家族化の影響によって、母と子だけの「密室の育児」になりやすい。障害の有無に関わらず子育てそのものが難しい時代を迎えている上に、さらにリファーによる障害可能性という新たなストレス要因も加わって、子育てそのものが危機的な状況に陥っているケースもある。普段から保健所等と連携して子育て支援を行うことも重要である。
3)情報提供
最近の保護者は自らインターネットで情報を求めていくことも多い。しかし、インターネットで提供される情報の量は膨大であり、よりいっそう混乱してしまう場合も少なくない。保護者が心理的に少し落ち着いてきた段階では、さまざまな情報提供をしたり、保護者が得た情報についてその真偽を含めて話し合ったりすることも必要である。
4)コミュニケーション支援
乳児期はあらゆる感覚をフルに使って楽しくコミュニケーションが行われることが重要である。初期の母子コミュニケーションは、情動的・感覚的かつ全体的未分化ではあっても、母子の愛着関係を培う上で重要な時期である。しかし、リファーを告げられるショックによって、本来の母子関係にそなわっているはずのいきいきとした自然なやりとりが十分にできなくなっているケースも見られる。乳児期のコミュニケーションは決して耳と声だけで行われているのではなく、からだ全体の感覚を使ってトータルに行われることの大切さを伝え、本来の母子コミュニケーション関係をとりもどす支援が何よりも重要である。
5)子どもの聴力評価
最近、リファー後からの最早期からの支援が徐々に増えてきている。確定診断の時期が遅くなればそれだけ保護者の不安も引き伸ばされる。リファーという「灰色」の時期を短くし、確定診断がなるべく早くなされるためには適切な聴力評価がなされなければならない。したがって、この段階における聴力評価は、確定診断のための資料となり得る聴力評価(BOA)であり、支援機関の新たな役割のひとつになると考えられる。
(7)早期支援機関の整備
三次医療圏に少なくとも1か所の聴覚障害乳幼児療育(教育)のセンター機関(難聴幼児通園施設または聾学校幼稚部・乳児相談部)を整備し、地域内の他の療育機関と連携して、全域をカバーする。ただし人口が多い地域では複数設置することが望ましい。
早期支援が必要な聴覚障害児の発生を1.5/1000とすると、人口100万に対し、15人/年の発生となり、ゼロ歳から就学まで6年間療育・教育を実施すると、対象児は人口100万に対し90人となる。
現在、難聴幼児通園施設ではゼロ歳から就学までの療育を行っており、聾学校幼稚部は法的には3歳以上就学までの聴覚障害児の教育を行うとされながらも、現実には3歳未満児の指導も行っている。従来多くの場合、難聴児発見時期は2歳過ぎ、支援開始は3歳であったので、新生児スクリーニング開始後は、これらの児がゼロ歳から支援を開始することになり、その対応を可能にするために、施設の拡充または新設により、体制の整備を行うことが必要である。
新設する場合には、難聴幼児通園施設の基準に準じて、地域の実情にあわせて設置運営する。今後は合併症を有する重複障害児が増加すると予測されるので、心身障害児通園センターへの併設などが望ましい。また、特別支援教育センターは乳幼児を対象とする場合、乳児の特性により、医療機関(耳鼻咽喉科、小児科)との連携が必須である。
乳児の場合は家庭環境での支援が重要であり、また、居住場所による不利益を受けずに地域内の聴覚障害乳幼児全員が均等に支援を受ける機会を持てるように、施設への通園・通学と共に在宅指導も実施できる体制の推進が必要である。
また、新生児聴覚スクリーニングにより早期発見された軽度・中等度の聴覚障害児も教育の対象に含まれる。療育・教育機関は、在籍児の保護者の選択に応じて、保育所や幼稚園との連携も考慮して、軽度・中等度の聴覚障害児への早期支援を行う必要がある。
(*)全国早期支援研究協議会(資料3)は<聴覚障害サポートハンドブック
軽度・中等度難聴編>“きこえにくいお子さんのために ”を作成し、頒布している。
地域のセンター機関は、医療機関や行政機関および地域内の各療育・教育機関と連携して、早期支援担当者への研修や地域保健担当者への啓蒙活動なども実施し、地域内の聴覚障害児に関する情報を集約する。
(8)聴覚障害を有する重複障害児の支援
聴覚障害児のうち、重複障害を有する児も多い。聴覚障害に知的障害や運動障害が重複すると、評価や訓練は一段と難しくなり、言語発達も著しく遅れる傾向にある。重複する障害の種類や程度により状態はさまざまであるが、他の障害へのケアと並行して、聴覚障害に対しても可能な限り適切な対応をしなければならないが、障害やそれから派生する様々な問題は、特定の技法や方法論のみでは簡単には解決できない。支援にあたる者は、個々の状態に合わせて、様々な方法の中から選択したり、組み合わせるなどして柔軟な対応を心掛ける必要がある。また、働きかけることに終始するのではなく、子どもの発達や成熟を待つ視点も重要である。
子どもはことばでのコミュニケーションが可能になる前に、表情、視線、目の動き、発声、身ぶりなどで自分の気持ちを表す。子どもが出すこれらの信号を大人が読みとることにより、コミュニケーションが成立してくる。この前言語期のコミュニケーション行動の発達は、ことば(音声、文字、手話etc)の準備をすすめるだけでなく、聴覚障害に知的障害を合併し、早期に補聴器装用などの聴覚活用を試みても十分に活かしきれない子どもたちのコミュニケーションを保障する上で重要な鍵となる。
聴覚障害だけでなく、重度の知的・運動障害を併せ持つ重症心身障害児では、特にてんかんを合併していることが多い。この場合、覚醒−睡眠のリズムが不安定であるために感覚刺激が入力されず、外界を認知できない。したがって、まず基本的な生活リズムが整うように配慮することが大切である。
健常な子どもたちにおいて、発達の原動力となる「自発的に外界に働きかける力」が、重度の障害児では乏しい。したがって、ただ発達を待っているだけでは子どもたちの潜在能力を引き出すことはできない。子どもが外界に働きかけやすいような状況設定や介助を発達・障害特徴に合わせて工夫し、積極的にさまざまな体験ができるような働きかけが必要である。
(9)家庭における養育
早期支援開始後も、支援実施機関で指導を受ける時間は限られたものであり、家庭における聴覚障害児の養育は重要である。しかし、養育者は家庭に於いて訓練士の役割を持つのではない。どのような場合も児を受容し、「子どもを可愛がる」こと、育児を楽しむことが重要である。
児の周囲の者は、はっきりしたことばでゆっくり表情豊かに、身振りも加えて話したり、体を動かして一緒に遊ぶ。実際に即していろいろな音を聴く(聴覚的実体験)機会を日常生活の中で作ってやることも大切である。聴覚障害児の養育では、特に身体的接触を大切にし、子どもからの信号を注意深く受け止め、これに応える事が必要である。親子のコミュニケーションが円滑にできることが大切であり、このためには、内ジェスチャー等の活用も良い。
聴覚学習には補聴器(または人工耳)を活用するが、聴能の発達を促すには、単に音を聞かせるのではなく、子ども自身が耳を傾けて(あるいは注意を集中して)聴く状態に導くことが重要である。すなわち子どもが「聞く(hear)」のではなく、自発的に「聴く(listen)」態度をつくることである。
(10)聴覚障害者および聴覚障害児を持つ親との交流の場の確保
聴覚障害児の多くは健聴の両親から生まれるが、両親は聴覚障害者と接した経験が殆どない場合が多いので聴覚障害者の生活について理解は困難で、児の養育にあたり困惑することが多い。この時に、聴覚障害者および聴覚障害児を持つ親は、ピアカウンセラーとして両親を支援できる。また、児及び家族が聴覚障害者、聴覚障害児および聴覚障害児を持つ親と交流することは、社会的関係を形成する上で、健聴児、健聴者との交流同様に重要であり、早期支援の一環として交流の場を確保することが必要である。これらの関係団体を資料4に示す。
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