9.本邦における新生児聴覚スクリーニング検査の普及状況と成果
平成12年度より年間5万人規模の新生児聴覚検査モデル事業が予算化された。この事業は聴覚スクリーニングをマス・スクリ−ニングとして実施した場合の問題点を検討するため、乳幼児の聴覚精密診断及び療育・指導の体制がある地域で実施することとされ、関係機関による協議会を結成し、出生医療機関における公費負担による聴覚スクリ−ニング、研修、保健師による支援体制、実施マニュアル作成、追跡調査等を実施し、問題点の検討を行った。平成13年度より岡山県、秋田県、神奈川県、栃木県の4県において開始され、平成14年度に北海道、東京都、佐賀県、埼玉県で、平成15年度に熊本県、長崎県、広島県、福島県、福岡県、さいたま市で、平成16年度に北九州市、17年度に、群馬県、岐阜県、富山県で開始された。現在までに17都道府県・政令都市で実施されたが、全県を対象としたところは少なく、また3年間の事業期間のみで終了してしまった都県もある。また、長野県は、モデル事業は実施しなかったが、医療機関に上限100万円のスクリーニング機器購入補助を行った。
モデル事業は平成16年度で終了となり、「新生児聴覚検査事業」は、平成17年度から創設された「母子保健医療対策等総合支援事業」の対象事業として実施されていたが、平成19年度からは対象事業ではなくなった。
「新生児聴覚検査事業」では、検査料の全部又は一部が公費負担で実施されていたが、年間5万例規模であり、自費診療により行われている検査の方が圧倒的に多い。日本産婦人科医会の平成17年の調査によれば、分娩施設の約60%が聴覚スクリーニング器機を保有している。また、県別のスクリーニング率には県間で大きな差が見られた(図12)。
図12. 日本産婦人科医会調査による県別スクリーニング率(2005)
また、本邦の主要な早期支援機関である、難聴幼児通園施設および聾学校の教育相談で支援・指導を行っている乳幼児の中、スクリーニングにより発見された児数は、スクリーニングの進行と共に増加しており、平成18年の調査では0歳児が323名(62%)に上っており、0歳児の指導数は517名で、平成14年の255名に比し2倍に増加している(図13)。この調査結果からも、本邦における出生児のスクリーニング率は約60%超と推定される。また、本邦における新生児聴覚スクリーニングによる発見と、これに続く早期療育の効果を示すものとしては、岡山県の新生児聴覚スクリーニングで発見されて、難聴幼児通園施設である岡山かなりや学園で早期療育を受けた例では、聴能の障害例、知的障害例を除いては、聴力100デシベル以上の高度難聴児であっても、就学時には言語性IQは全例平均以上となり、年齢相当以上の言語力が得られている。
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