[4]医療安全・紛争対策部
人間の尊厳性を確保する究極的な行為の一部が医療であり、その原動力はヒューマニズムの発露に他ならない。ここ数年、「人は過ちを犯す存在」であるとの前提を事業推進の柱としてきたのは、ヒューマニズムの発露にあたって、人としての欠陥を補うことを目的としたためであるが、いわゆる“医療事故多発施設(医師)”問題の台頭により、新たな課題への対応が急務になったとも言えよう。
医療は、ヒューマニズムから発し知識・技能を得て発展してきたが、医療事故多発施設(医師)問題は、知識・技能の研磨はもとより、医療人としての姿勢に宿した怠惰の陰りを祓い、ヒューマニズム(真摯な姿勢)にも根ざした対策も不可欠と思われるからである。
昭和24年に創立以来、本会は歴代会長の遺徳に、さらなる徳行を重ねて今日を迎えている。時々の事象に「徳」をもって対応してきた足跡が、本会の支えであり名利に勝る財産となっている。
医療事故多発施設(医師)、リスクマネージメント(医療事故対策)、マスコミや医事紛争の防止対策等々の産婦人科医療を取り巻く諸問題に、この言葉を支柱に本年度の事業展開を図ることとする。
産婦人科専門医団体としての本会にあって、医療安全・紛争対策部では、前述を普遍的な公理として、1.医療事故多発施設(医師)に対する研修対策と小冊子等の研修資料の作成・提供(会員対策)、2.産婦人科医療の現状(羊水塞栓症をはじめ、母体死亡、新生児死亡、脳性麻痺など、現在の医療がおかれている限界)に関する啓発(広報対策)、3.全国支部医療安全・紛争対策担当者連絡会の開催(連携・協調対策)、などの事業をメインに、国の「健康日本21」、司法制度改革や判例傾向(弱者救済
-> 結果責任 ->
正しい医療の歪曲化)も視野に入れて、各支部と関連各部・諸団体(日本医師会、日本産科婦人科学会等)との密接なる連携のもとに、本年度は以下の事業を推進する。
1.医療安全対策
- (1) 「第13回全国支部医療安全・紛争対策担当者連絡会」の開催
- 医療側、患者側において最も身近な問題で、なおかつ最も切実な問題として医療事故や医事紛争を捉えて、会員にとって必要不可欠な情報の伝達はもとより、防止対策や対応処置のシステム作りの協議の場として、全国支部の担当者らとの膝を交えての連絡会を2年毎に開催している。
本年度は平成16年11月21日(日)京王プラザホテルにての開催予定とし、いわゆる“医療事故多発施設(医師)”への対応を中心に連絡・協議を行い、昨年度作成の医療事故多発施設(医師)に対する研修会資料の活用と、日本医師会、都道府県医師会との協力・協調したシステム作りへの理解と協力を図る。
- (2) 「医療事故・過誤防止事業」の推進と関連資料の整備・活用
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同一医師や施設に医療事故が多発するのには、医療に対する姿勢やシステムに欠陥があると見做され兼ねない面もある。このため、全会員・支部の協力を得て、医療事故・過誤防止に向けての事例報告事業を開始し、新たに必要と思われる資料の整備や活用を通じて、医療事故多発施設(医師)対策として具体的な活動(指導、研修、勧告など)を開始し、国民に安心・安全な医療を提供できる体制作りを目指す。
また、このことは、医療従事者なら、誰にでも包含されている欠陥を浮き彫りとすることにもなるため、他山の石として、明日は我が身と受け止めることの真摯さの強調を図り、医療事故の発生防止に資する。
- (3) 医療事故多発施設(医師)対策に向けた支部研修会への支援
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要請があり次第、講師等(委員・役員)を派遣できる体制を整え、各支部における医療事故多発施設(医師)対策向け研修会を支援する。
- (4) 「インシデント・アクシデント/レポート調査による対処マニュアル」の作成・配布
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「産婦人科診療におけるインシデント・アクシデント/レポート調査結果」(調査期間:平成14年2月〜4月)から、臨床上の知見や技術以前に、思い込みや勘違いなど、逆説的に“人間の証明”とも言える些細なミスが日常診療に包含されている実態が浮き彫りとなった。このような人間の宿命に起因する小さなミスが、トラブルになることがないように、調査データを駆使した対処マニュアルを小冊子形式で作成し、全会員に配布する。
また、同調査結果の図表をCD-ROM化して、必要に応じてスライドとして活用できるように数枚を常備する。
- (5) 小冊子「これからの産婦人科医療事故防止のために」の作成
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医療事故の予防を主眼とした資料として、速報性と簡便性も加味して具体的な問題を取り上げた小冊子を平成9年度より発行(現在No.16まで)している。
本年度は前述調査結果を活かし、些細なミスへの対処マニュアルとしての小冊子を作成する。
- (6) 「羊水塞栓症の血清検査事業」の継続と検査データの活用
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昨年度より浜松医科大学と本会とが協力・協調して実施している「羊水塞栓症の血清検査事業」を継続する。
本事業は、1.症例の収集、2.採取血液の分析、3.正しい確定診断、4.本症発症から転帰に至る機序の解明、5.医事紛争への支援・対応策の確立を目指し、各段階で両者が協調して対応し、究極として本症がもたらす不幸な事態の軽減を目的としている。このことから、分析データ等も含めて医療安全対策上の資料としての活用も図る。
- (7) 継続(検討)事業
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対外的な働きかけ(厚生労働省や関連団体への要望書提出等)と、会員への情報伝達(日産婦医会報等)を主眼に、情報収集、関連各部・学会等との連携・協議を図り、医療安全対策の遺漏なきを期する。
1.汎用されている「能書外使用」薬剤に関する検討
2.診療録開示における問題点の検討
3.異状死に関する見解の検討 他
2.医事紛争対策
- (1) 医事紛争事例の対応
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支部・会員等より要請のあった事例については、解決への障害となっている事項や対策について、当事者、担当者、場合により法律家も交えての医学的、法律的な見地からの専門的な検討を通じて助言、支援を図る。
また、日本医師会担当者や法律関係者、ならびに日本産科婦人科学会「鑑定人推薦委員会」との密接な情報交換のもと、医学的・社会的な動向をも踏まえた“up-to-date”な情報の収集に努める。
- (2) 鑑定人推薦依頼に対する対応
1)日本産科婦人科学会との連携・協調
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司法当局や会員や支部からの鑑定人推薦依頼には、「鑑定人候補者リスト」をもとに、適任者を選定・推薦してきたが、裁判所からの依頼には、平成13年7月13日に設置された最高裁判所内の「医事関係訴訟委員会」(各裁判所からの鑑定人選定要請をもとに、最も相応しい医学関連学会に鑑定人候補者の推薦を依頼し、その候補者の検討も行う)により、日本産科婦人科学会が主体的に対応(最高裁の指導で各裁判所からの直接依頼は不可)することになった。
このため、同学会への支援を通じて、産婦人科専門医団体としての付託に応えていく。
また、会員や支部からの鑑定人推薦依頼は従来のように本委員会で対応し、その支援を図る。
- 2)「鑑定人候補者リスト」の整備
- 会員、各支部の協力を得て、内部資料(部外秘)「鑑定人候補者リスト」の整備を学会と協調して行う。
- (3) 結審事例の検討
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産婦人科関連の判例への検討、分析には、最新データの集積が肝要なため、平成7年度導入の判例体系CD-ROM(第一法規出版編)の更新(平成16年度版)を継続する。
また、判例関連の情報誌も併せて購読し、会員等からの要望のある判例情報の提供に活用する。
- (4) 日産婦医会報「医事紛争シリーズ」への対応・活用
- 1)掲載記事への対応
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ニュースソースの確保、産婦人科医療を取り巻く動向把握、時宜を得たテーマ選び、ならびに普遍的公理の発露(本会の姿勢)の4者が一体となって、読者(会員)への有用情報の提供となる。このため、筆者の負担軽減と医会報の誌面充実の観点からも、医療安全・紛争対策委員会委員・顧問各位と広報部の全面的な協力を得て、掲載記事の作成を図る。
- 2)掲載記事の活用
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掲載記事は“医事紛争シリーズ集”として収録冊子(平成6年11月版、平成10年11月版、平成16年3月版/掲載開始の昭和54年5月から平成15年11月までの288記事を収載)にしている。
本年度は、昨年度作成の“医事紛争シリーズ集”(平成16年3月版:60記事を収載)を医療安全・紛争対策上の資料としての活用策を模索する。
- (5) 産婦人科関連医薬品使用上の注意に関するパンフレット作成
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平成8年度発刊の「産婦人科関連医薬品使用上の注意に関するパンフレット」は、1薬剤1部(4頁以内)の追録形式で作成し、追録のバインダーも含めて全会員に配布後、新入会員にも残部に限り随時無料配布しているが、PL法やインターネットの普及等は、相次ぐ添付文書「使用上の注意」改訂の背景ともなっている。
このため、新たなる収載薬剤や改訂を要する薬剤について、適宜注意を払いつつ、本年度も必要に応じて追録を作成し、対応する。
- (6) 支部月例報告
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支部月例報告(各支部から本部への月間定期報告)の「医療事故の概要」報告により、医事紛争に関する事故報告を集積と医事紛争の実情把握の資料としている。
本年度は、報告内容(用紙)や、各支部の報告状況についても検討を加え、その充実を図る。
3.委員会 以上の事業を円滑に遂行するため、医療安全・紛争対策委員会を存置する。
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